第8話 飛島ヤエの命令
隊列を組み、気を緩まず、退去して行ったアメリカ軍を見て
「ばあちゃん、かっこいいね、アメリカの兵隊さんは」
「そうだな、戦いの最前線にいる国の兵士とはいいもんだな」
飛島ヤエは急に顔つきを変え、少し考え事をするようなしぐさをして
「マリ、本当はもう少しここでお前に色々と案内してやりたかったんだが、急用ができちまったよ。
お前はもう家に帰りな」
幼いマリは祖母を見つめてほっぺたをプく―とふくらませて
「やだよ~ばあちゃんと一緒にいたいよ~これからすごい人に話をするんでしょ」
ヤエはびっくりした顔でマリを見て
「ふ~お前も私に似て、相手の心を読むのがうまくなったな~でも、いいのかい~遅くなると、お前の母ちゃんがこわいぞ~ごはん作ってくれないかもしれないぞ~」
マリはとても困った顔をして、
「わかったよ~ばあちゃん、お母さん怒るとこわいからな~」
「よ~し、イイ子だ」
飛島ヤエはうれしそうに、マリの頭をグリグリとなでた。マリは祖母が大好きなのか、とてもうれしそうに笑っていた。そして、近くにいる山本幕僚長に
「お~い、山本」
「はい、何でしょう」
「さっき基地の入口にいたボンクラ兵士はどうした」
「はい、あなたに失礼を働きましたので、営倉に入れていますが」
「そうか、それじゃあ、自衛隊員としては、お払い箱ということか」
「それはそうです。こんな事態になった原因ですから」
「それはちょうどいいな、これから、しばらくの間、うちの子の送り向かいやここでの訓練時の身の廻りの世話をあの2人にしてほしいんだがな、2人で交代でやれば、休みも取れるだろうしな、だが、もし断ったら、一生刑務所だな。フフフ、あいつらにどちらがいいか選ばせろ、いいな」
山本は、こんな小さい少女の世話など自衛隊員であれば、誰もが、やりたがらない仕事だが、それをしなければ、犯罪者として刑務所に行かなければならない状況であれば、誰でも必死にやるしかないだろう。
全く、伝説の最高司令官という方は、どんな状況においても、的確な判断と人の使い方を心得ていると
とても感心した。
「了解しました。ただちに確認いたします」
山本は近くにいる部下に阿部と武田に確認を取る様に指示をした。ヤエは山本に近寄り耳元で
「それとな山本、ちょっとお前に頼みがあるんだがな」
「なんでしょう」
また飛島ヤエはニヤニヤして
「私らのせいで、今、日本とアメリカは現在険悪な状況だ。アメリカ軍が撤退し、交戦する事態は避ける事ができたが、アメリカは予告なしの日本への攻撃で侵略行為とまで言われ、巷では大騒ぎだ。そこで、今度は日本にも泥を被ってほしいのさ、さっき帰ったオーネル中佐にも指示を出したんだがな、あいつらの基地にも大きな武器庫がある、あと、2時間後に自衛隊の戦闘機でその武器庫をぶっ飛ばしてしまえ、日本も予告なしに攻撃すればお互い様だろ、中佐にはその時間、航空警戒は解除してもらい、アメリカの迎撃もなしだ。もちろん武器庫には誰もいないようにしてもらっている。どうだ、できるか」
山本はビックリして、あのちょっとの時間でこんなことを瞬時に思いついて、アメリカ軍に指示を出していたなんて
「ですが、私は陸上自衛隊です。航空は指示できません。それに一応、他国の基地に攻撃ともなると上官に報告する必要があります」
「ふ~上官に報告したら、間抜けな大臣に連絡して攻撃を中止させられるか、おそらく、ご丁寧に事前にアメリカ政府に攻撃しま~す。お気を付けてくださ~い。なんて言うに決まっているだろうが、このままだとアメリカは持てる力のすべてを持ってこの日本を攻撃するようになるだろう。おそらく、日本がアメリカに対して、よからぬ企てをしていたとかデッチ上げて、先制攻撃をしたんだとか言って、そして、経済状況もよくあらゆる産業において優秀なこの日本を占領、吸収することを考えるだろうな。かつて私達ががそうなる寸前にこの日本を救ったというのに」
飛島ヤエはかつての日本帝国政府や帝国軍人を思い出した。自分のことなどさておき、お国のため、そして、誇り高き日本人として、その精神はとても美しかった。だが、敗戦国になり、骨抜きにされた日本にできた自衛隊員はまるでサラリーマンのような感じがした。
「ふ~困ったな、ある程度は私も顔が聞くがアメリカ軍に攻撃しろ。はいそうですか、なんて気がいのある男はいたかな~」
そこに阿部と武田が勢いよく走って来て
「飛島さん!」
阿部陸曹が考え込んでいる飛島ヤエに声をかけた。ヤエは間の悪いタイミングで来る奴だと思いながら
「なんだ」
「マリさんの身の回りのお世話、喜んでさせていただきます」
「別にいやだったらいいんだぞ」
「とんでもありません。喜んでさせていただきます」
「そうか」
ばあちゃんの隣にいるマリを見て
「マリ、この2人がしばらくここでお前のお世話をしてくれる者だ」
マリは2人をじ~っと見て
「2人とも、本当は私の面倒なんかみたくないんだね。でも犯罪者になるよりはましかって思ってるね。ばあちゃん、たぶんこの人達、少しして慣れて来ると、いいかげんな態度を取る様になるよ~」
飛島ヤエはギロリと2人を睨んで、
「そうかい、さすがはマリだね。わたしも同じ様なことを考えていたよ」
その話しを聞いていた山本幕僚長は
「飛島さん、マリさんが通い出す4月に入隊式があります。おそらく学校は春休みだと思いますので、そこでマリさんを准尉に任命しようと思います。ここ自衛隊の階級は絶対です。上官に不誠実な態度を取れば処分はまぬがれません。どうでしょうか?」
「そんなことができるのかい?」
「はい、私には特別枠があります。この基地を利用されるお二人はすでに自衛隊員と同じ扱いで登録されていますので、隊員であれば、私の権限でこれくらいはできます」
「そうか、それならば頼む」
「承知しました」
阿部と武田はまさかこんな小さな女の子が4月から上官になるのかと驚いた。
「よし、マリこの2人に今日は送ってもらえ、自宅の住所わかるな」
「もちろん、わかるよ」
「おい、お前達、さっき話したが、決して、この子を軽く見るんじゃないよ」
阿部と武田はこんな小さな子に何をムキになっているんだろうと思った。飛島ヤエはその考えを見抜いた様にさらに話をした。
「このことは一部の者にしか話してない秘匿事項だ。他言は許さない。耳の穴をかっぽじってよ~く聞きな!マリはこの先、この世界で重要な存在になる。何かあれば、全力でこの子を守れ!いいな」
飛島ヤエのすごんだ目に圧倒されながら、阿部と武田は敬礼をして
「承知しました。命に変えてもお守りいたします」
「よし、頼んだぞ」
阿部は、早くこの異常な場所から立ち去りたくて、目の前にいるマリを見て
「それじゃあ、マリちゃん、おじちゃん達とお家に帰ろうか」
その様子を見ていた山本幕僚長が激怒して
「貴様~これから上官になる方に、何がマリちゃんだ~ふざけるな~」
阿部と武田はびっくりして
「申し訳ありません」
「もう一度言いなおせ」
「はい!飛島マリさん、外に車を用意しています。案内をしますので、私達と同行願います」
山本はヨシっと言って、マリを送りだした。
建物を出ると、普通の乗用車が止まっていた。
「あれ~ジープじゃないの?」
「飛島様から目立たない様にと言われてますので、普通の車ですよ」
「そっか~ばあちゃんの指示ならしょうがないね。それじゃあ、阿部さんと武田さん、これからよろしくお願いします」
「は、はい」
阿部と武田はマリを後部座席に座らせて、運転は武田、助手席には阿部が座った。
武田はバックミラーを見て、後部座席にポツンと座っている、こんな少女が本当に世界で重要な存在になるのか?普通より見た目はかなりかわいいがどこにでもいる少女じゃないか。と思いながら、マリに言われた住所に向かって車を発進させた。




