第10話 入隊式
「さあて、今日からまた頑張るか」
武田はあの戦争騒ぎから、1週間が過ぎ、3月で自衛隊をやめる予定だったが、その騒ぎの責任を取らされ、飛島准尉の部下として、本日付けで新たにこの基地に着隊することになった。
武田の実家では、1人息子が家に戻ってくることを楽しみにしていた武田の母は再度、自衛隊に勤める事になった息子を、また笑って送りだした。だが、気軽に外泊はできない勤務に顔は笑っていたが、悲しそうな眼をしていた。
それから、阿部陸曹や武田1等陸士は事前に飛島准尉の身の回りの世話や自宅と基地の送り迎え、飛島家の家のきまりや、両親にも話してはいけないことなど、飛島ヤエからとても厳しく教育された。
飛島准尉の自宅は山梨の吉田町から少し離れた山の上にある所で、下道から山道を少し車で登り、森が開けたところにポツンと家がある、外から見ると門がまえはいたって普通の家だが木々や塀で外から敷地内が見えない様になっており奥に大きな家や敷地が広がっていた。そして家も軽く100坪はある平屋でさらにその奥には1000坪を楽に超える敷地と奥に不思議な武道館やよくわからない建物が建っていた。そこは飛島ヤエとマリしか奥の建物は入れない決まりのようで、いったい、ここでいつも何をしているのかまでは教えてはくれなかった。そして4月1日の朝を迎えた。
「マリ、行くぞ」
今日から、本格的な訓練のはじまりに飛島ヤエは気合いが入っていた。
「お母さん、マリにあまりおかしなところに連れていかないでくださいよ」
「エリさん、約束通り・・・」
「わかっています。口は出すなですね」
「そういうことだ。この子はね・・・」
「はい、わかっています。世界を救うですよね」
「じゃあ、今日から、学校以外では、外で習いごとをしてくるからな。遅くても20時には帰って来るよ」
「今は春休みだからいいですけど、学校が始まってもその習い事は行くんですか?」
「そうだ、毎日、放課後も行かせる、1日でも休むとその分、覚えるのが遅れるからな」
「わかりました。マリに無理をさせないでくださいよ。マリもお母さんの言う事をよく聞いて頑張りなさい」
マリはニコニコして
「うん、頑張る、ばあちゃんはね~とってもすごいんだよ~だから、私、これから楽しみなんだ」
玄関でマリが母と祖母と話をしているところに外に車の音が聞こえた。
「お、マリ迎えが来たぞ」
「うん」
「じゃあエリさん行って来る」
「いってらっしゃい」
「いってきま~す」
まるで、お友達と遊びにでもいくようなかわいい声でマリは迎えの車に乗り込んだ。飛島ヤエの指示通り、普通の乗用車で阿部と武田が迎えに来た。
「今日から頼むぞ2人とも」
「はい、お任せください、今日は入隊式がありますが、あまり、一目に付く様なことは避けるとのご指示だったので、そのまま訓練設備棟へ向かいます。よろしいですか」
マリは学校でいう入学式に自分が行けないと思い
「なんで、私も隊員なのに式に出れないの?」
「お前はまだ小さい子供だ。いくら強くても、式に出ると目立つからね」
マリはほっぺたを膨らまして、少し怒った顔で
「いいよ。わたし、目立っても、だって、ばあちゃん、よく言っているよ、こそこそしている奴にはろくな奴がいないって、胸を張って生きろって」
「アハハハ・・・そうだな、これから、しばらくはあの基地に行く事になるんだ。ここで、こそこそ、あの基地に行くのも、良くないな、どうせなら堂々と行くとするか」
阿部と武田はまた始まったと思った。この2人はコロコロと予定を変更する。そして、反対すると、ありとあらゆる手を使ってそれを実行しようとする。この前は日本とアメリカと戦争が始まる寸前までいったことを思い出していた。だから、反対などせずに
「承知しました。一応、飛島准尉の制服は一通り作ってありますので、これから、基地に連絡を取り、至急、女性隊員に更衣室まで案内させます」
基地に到着するなり、マリは更衣室で制服に着替えた。
マリが着替えで待っている中、武田がヤエに前から気になっている質問をした。
「飛島さん、これから、毎日あの施設で飛島准尉の訓練をさせるとおっしゃってましたが、教官はどなたなのですか?あれだけの世界中の武器を扱える人なんて、そうそういませんよ。よほどのマニアか、アメリカの諜報員のような特殊で高度な教育を受けた方でないと」
「そんなこと心配無用だ。これでも私は世界中の武器に精通しており、誰にも負けない程、重火器の扱いが大好きなんだ。かつては、武器商人、顔負けの知識の持ち主とまで言われていたからな」
飛島ヤエは小さい銃から戦車まであらゆる武器が大好きで、そのことに関して言えば、世界でも右に出る物がいないほどの知識を持っていた。
「もう、あなたは何でもありなんですね」
「武田、いちいち飛島さんのことで驚いていたら、体が持たないぞ、もっと柔軟に対応していくしかあるまい」
そして、マリが更衣室から出て来た。小さい体にピッタリな自衛隊の制服が妙に似合って見えた。
「お~、マリ決まっているぞ」
「そお~?おかしくないかな?」
「おい、阿部と武田も見とれてないで、なんか言ってやれ」
「飛島准尉、よくお似合いです」
マリはヤエや阿部と武田に褒められて、とても嬉しそうだった。
「それでは、あちらの施設で30分後に入隊式が始まりますから、ご案内します。それと
最前列の一番左側に行ってください。後ろの方だと何も見えないと思いますので」
「武田、マリの付き添いを頼む。私は、はじっこの方で座って待っているよ」
「わかりました。それでは准尉こちらです」
マリは武田に付き添われて、入隊式の会場に向かった。阿部は訓練施設でヤエに指示された銃や弾丸などのその他の準備に向かった。会場に付くとそこは学校の体育館の倍以上はあるところで、入隊したばかりの隊員達であふれかえっていた。
「おい、見ろよ、あんな小さい子供が制服を着ているぞ。なにかのイベントかな?」
「まさか、入隊式はそんな遊びとは無縁のはず、おそらく、隊員の子供がお父さんに憧れて、似た制服を着ているんだろう」
「それにしても、かわいい女の子だな」
マリは小さいながらも体は強靭だが、ついでに耳も凄く良い、周りのうわさ話が耳に入り少し大声で
「武田陸士、あいつらは私をなんだと思っているの、上官に向かってあんな態度、許していいの」
武田も大きい声で
「飛島准尉、あいつらに注意をされたらいかがですか」
「任せといて」
マリは自分の事を見て笑っていた階級が下の10人ぐらいの入隊する隊員に向かって
「今、私の事を見て笑ったな、なにがおかしい」
また、その者達は、笑いながら、
「だって、おかしいでしょ。お譲ちゃん、そんな偽物の制服を着て、お父さんのまねごとをしているの?家族などは向こうにある椅子に座っていい子にしてないとだめだよ」
その中の1人が子供をかわいがるようにマリの髪の毛をポンポンとたたいて、マリの髪型が少し乱れてしまった。遠くからマリを見ていた、飛島ヤエがその様子を見て、大声で
「まずい、お前達~マリから離れろ~」
マリは異常なほど髪に執着があり、少しでも触られると、切れて手が付けれなくなる性格だった。
会場には500人近い入隊員がおり、ヤエもすぐにはその場所に行けなかった。
「あれ~急に震えだしちゃったよ~この子、そんなきついこと言ってないよね~泣かないでね~」
「おいおい、こんな小さな子を泣かしてはだめでしょ。よしよし、こわくないからね。あっちの家族の席まで連れていってあげるからね」
そう言って女性の隊員もマリの髪をグリグリとなでまわした。そして、また、マリの髪が乱れた。遠くから見ていたヤエは
「もう駄目だ」
とつぶやいた。そして
「お前達、陸上自衛隊山本幕僚長から指名され、准尉としてこの場にいる上官の私を侮辱し、そして、私に手を上げたな~大事な髪がぐちゃぐちゃになったぞ~武田~こいつらは上官を侮辱し、手まで上げた~私が痛い目に合わせても問題ないな」
武田は飛島准尉の強さはけた違いと聞いていたので、逆らわず
「准尉のおっしゃる通りです。こいつらには教育が必要です」
武田は巻き沿いをくらわない様に話しながら、後ろに離れていった。
「あははは、教育だってよ。こんな小さい子に何をビビっているんだ。あれでも上官かよ」
その瞬間、そう言った1人がマリの蹴りで軽く5mほど吹き飛ばされ、一瞬で失神した。
「さあ、次は誰だ、手加減してやったのに、あの野郎は失神しているぞ、上官に向かって、その生意気な態度はなんだ~お前らそんなにお偉いんだったら、私にかかってこい、この口だけのアマちゃんが~」
マリはまたもう一人を今度は空高く蹴りあげた。2mほど高くあがり、地面に落ちてきて、またその隊員も失神した。
「おい、次は私の頭をなでまわしたそこの女だ~上官に上から物を言えるんだ。お前はどれだけ強いんだ。ほら、かかってこい」
大学を出てはじめて自衛隊に来た女性は、何もできずにただそこで震えいた。
「なんだ~さっきまでの勢いはどうした、お前は私よりも強いから笑っていたんだろう、震えて、なにもできないのか~」
そして、正拳で腹に一撃を与え、その女性はうずくまった。残りの7人もマリがあまりにも強く、化け物のような力を見てすぐに
「申し訳ありません。あなたのようなかわいい子供がまさか、本当に上官だとは思わなかったんです。許して下さい」
残った全員がマリに頭を下げた。
誤った様子をマリが確認したら、落ち着きを取り戻し、
「なんだ~そうだったんだ。早く謝ればいいのに」
武田は隊員が謝った途端、落ち着きを取り戻したマリを見て、不思議そうに
「准尉、ちょっとやりすぎましたね」
「そお?私、ものすごく力を抜いていたから、三人ともケガはしてないはずだよ」
マリは3人のところに行き、確認をして目を覚まさせた。
「ほら、大丈夫よ」
マリの強さに震えながら入隊する隊員はそこに直立不動で立っていた。
「あなた達、これから、もしまたこんな態度を取ったら、今度は手加減しないわよ。いい?わかった」
隊員達は全員震えながら
「はい、わかりました」
マリはニコッと笑って、その場を離れた。入隊式の会場のど真ん中で乱闘騒ぎがあったが、幹部連中はあの飛島ヤエの孫だとわかると、見て見ぬふりをしていた。また、あの人達に関わると、とんでもない事が起きる、とにかく、逆らわなければ、害はないと思っていた。




