第1話 遭遇
日本にそびえ立つ富士山、その景色は誰をも魅了し、とりこにする。
独立したその山の頂きを見れば、どんなことでも成し遂げらる力を与えられるような気持になる。
そのふもとにある、自衛隊富士基地では毎日の仕事に嫌気がさした、入隊3年目の武田がため息ををついて、考え事をしていた。
『なんとなく地方の大学を卒業して、なんの目標もない自分が嫌になり、いつか、国を守れるすばらしい人間になりたくて、陸上自衛隊に入り、富士駐屯地に勤めることになったけど、あれから3年、毎日の様に訓練や教育に雑用、それに通気性の悪い靴のせいで水虫にも悩まされる。自由を許されない時間も多く、ここの宿舎で寝泊まりをして外泊もできない。責任ある仕事は上官や幹部の仕事、そろそろこんな夢も希望も無い生活から解放されたいなあ』
今日もいつものように基地入口の警備をして、夕方になり、基地に誰も出入りすることもなく、また、退屈な時間を過ごしていた。その矢先、不思議な人物が徒歩で基地に現れた。
「おい、責任者を出せ」
70歳は過ぎたみすぼらしい服を着た老女と小学生になったぐらいのかわいらしい服を着た女の子が
そこに立っていた。
「え~と許可証がないと、中には入れませんよ。基地の見学は今日はやっていませんから、お帰り下さい」
自衛隊の迷彩色の制服を着た、細身の大学生のような童顔の隊員武田が面倒くさそうに答えた。
「責任者をだせ、これで2回目だぞ」
「え~と責任者はこのようなところには来ませんよ」
「あんた、名前は?」
「私は武田順一です」
「武田は耳は聞こえるのか?」
「はい、聞こえます」
「そうか、じゃあ、お前はばかだな」
「責任者をだせと言ったのにお前は何も確認もしない。私が誰かも聞きもしない、見た目で判断して、追い返そうとする」
「それはそうです。本日、この時間、予定もありませんから」
「ふ~、この私をからかっておるのか」
武田はあきれた顔で、話された内容を全く気にも留めなかった。富士の裾野にある、この基地はとても歩いてこれるようなところではなく、3月末だというのに基地の周辺はまだ雪が多く残っており、武田は入口の詰所から出て、二人に近づいて
「おばあちゃん、こんな遠くまで歩いて来られたんですか?基地まで来るのは大変でしたね。これから自宅に帰る者がおりますから、町まで送らせますから」
気温が低いせいか、武田は白い息を吐きながら話をした。
老女の隣で立っている小さい女の子がかわいい声で
「ばあちゃん、どうしたの?ばあちゃんはここでは一番エライんでしょ。入れないの?」
女の子は心配そうな顔で老女を見た。
「そうだな~私がいたから、この日本が存在できているというのに、こうもぼけ老人として対応するなんてな。本当に困ったもんだね」
「ばあちゃん、こんな弱そうな人なら、私が倒して中に入れてあげようか」
少女は空手の構えをしたが、かわいいレースの服を着ているため、余計に、この自衛隊隊員をばかにしているように見えた。
「アハハハ、こんなちっぽけで、そろそろ、自衛隊をやめようと考えている奴なんか、お前が相手にすることもないよ。日々の辛い仕事を頑張る事で将来、自分にどのようになるのか、この武田という男は何もわかっていないんだからね」
「ふ~ん、この人、根性無しだね」
「そうだな。お前の方がよっぽどすごいな。さ~てどうするか。基地内にお前のために造らせた施設を今日から使おうと思ったが、まさか、入口で足止めをくらうなんてな」
「ばあちゃん、偉いんだったら、お友達を呼んで入れてもらえばいいんじゃない」
「フフフ、そうだな。お友達か~、誰がいいかな~」
老女は、どこにでもいるような、いかにもおばあちゃんといった感じの雰囲気だったが、急に気持ち悪い顔でニヤつき
「私はね~有名な人がいいと思うよ~」
少女はご機嫌でニコニコして老女に話をした。
「そうだ、武田、お前は誰がここに来れば中に入れてくれるんだ」
武田はびっくりした様子で
「何を言っているんですか。もう日も暮れてますから、そういう話は家でしてもらえますか。ここは、お年寄りの話を聞く相談所じゃ、ありませんから」
「ワハハハ、武田、お前、私にそこまで言う奴はレナードやビクトリアぐらいだぞ。もしかしたら、お前もここを辞めなければ、化けるかもしれないな」
「ばあちゃん、その人は呼べないの?」
「ん?そうだな、2人とも遠い国にいるからな~呼べば飛んでくるはずだが1日近くかかるから無理だな~」
「ふ~ん、じゃあどうするの?ばあちゃん」
「武田が中に入れてくれないなら、この基地をアメリカに頼んで占領してもらおうか」
「アハハハ、それ楽しそう、ばあちゃんそれにしようよ」
基地の周りを巡回していた上官の阿部は入口で妙な2人と話している部下の武田を見て
「武田!何をべらべら話している、こんな時間だ。民間人は基地には入れないんだ。早く帰ってもらえ!」
イライラしながら今度は30歳ぐらいで180cmは超える大柄な男が近づいて来た。
「何をやっているんだ。お前は」
「すみません。阿部陸曹、この民間人がなかなか言う事を聞いてくれないんですよ」
「全く、お前は世話のかかるやつだ」
辺りは太陽が陰り、薄暗くなりはじめ、ひんやりとした寒い小さな風が吹き、早く帰らせたい気持ちを掻き立てた、阿部は老女と少女を見て優しく
「お帰りください。ここは民間人が気軽に入れるようなところではないんですよ」
老女はあきれた顔で
「阿部とか言ったな。私は民間人ではないぞ。いいから責任者をだせ。私のことを知らないとは、お前達はバカなのか」
阿部はぼけた老人を相手にするように
「いい加減にしてください。今から、うちの隊員に町まで送らせますから、あきらめて帰って下さい」
老女はこれ以上、話をしても無駄だと判断して、夕暮れで真っ赤に色づいた富士山の方を指さして、
「あそこに私が作らせた施設がある、そこに行こうとする我らを入れさせないというならば、こんな基地ぐらい占領するのはわけないぞ。最後にもう1回だけ言う。責任者をここに出せ」
阿部陸曹はなんでこんないかれてしまった老女がこんな小さい子供連れて来ているのか、全く意味も解らず、また、再三に渡り、責任者を出せという言葉を発していたが、ここの責任者山本幕僚長に連絡すらしなかった。
「それはできません。お帰り下さい」
「そうか、山本に連絡もしないで追い返すか。あいつはウイスキーが好きたから、差し入れまで、持って来たのにな。あいつはすばらしい男だが末端のお前らがこの対応ではあいつもたいしたことないな」
全く話を聞かない2人にあきれて、少女を見て、また、気持ち悪い顔でニヤつき
「それじゃあ、マリ、おっぱじめようか」
少女はワクワクした顔で老女を見た。そして、老女はポケットから透明な無線機のようなものを取り出して、深く息を吸い込んで
「我が名は飛島ヤエ、アメリカ名誉司令官権限を発動、日本国富士基地に緊急戦時軍をここに出動させろ、基地を占領しだい、私に報告をいれろ!」
老女は英語で近くのアメリカ空軍に発令をかけた。




