大学生活のスタート
俺たちはほどなくして大学に到着した。
「ふう。間に合って良かった。あとで大学の入り口で写真撮ろうぜ。」
松比良が、右ポケットに入っている携帯をズボンの上からたたく。
「そうだな。せっかくの入学式なんだ。写真はいっぱい撮らないとな。」
ふと周りを見渡せば、黒いスーツを着た人でごった返している。これを見るとどこからともなくこれから大学生になるんだという実感がわいてきた。
これみんなサングラスしたら戦○中のハンターがたくさんいるみたいになるんじゃね、などとくだらないことを考えながら、おれは人の波に流されるようになんとなく周りに合わせてついて行くことにした。
「入学式は大ホールで開催だったよな。大学の開会式ってどんな感じなんだ?もしかして有名人とか来ちゃったりして。」
「どうだろうな。なんとなく話聞いて、写真撮って終わりなんじゃないか?」
「なんだよ。冷めてるな。もうちょっとテンション上げてこうぜ。」
テンションなど上がって当然だ。が、それを悟られるのがなんだか恥ずかしく、素っ気ない対応をしてしまった。
そのまま他愛のない会話をしながら、5分ほど歩くと、大ホールが見えてきた。
「受付はこちらでーす。」
大学の先輩だろうか。元気のいい声が玄関前から聞こえてくる。ざわざわと騒がしい中でも、この人の声は高く透き通っており、しっかりと耳に届いた。
「結構ならんでるなー。僕らもならぼうか。」
松比良がそう言うと、首を振って最後尾を見つけて歩き出す。俺もついて行くことにした。
待つこと8分とちょっと。ようやく俺たちの番だ。それにしても今日は晴れて良かった。雨の中スーツで待つのはきついからな。
「学部と名前を教えてください。」
受け付けにはこれまたスーツのお兄さんが座っている。長い時間受付をしているのに笑顔で対応してくれてなんだかうれしくなった。
にっこり笑顔で対応してくれてありがとう。ほっぺの筋肉疲れるだろうから、今日は顔に湿布でも貼ってゆっくり休んでね。
反対側の机で受付をしている松比良を横目に、おれはお兄さんから資料を受け取って少し中へ進む。
なんだか緊張してきた。
大ホールのドアの前に立ち、深呼吸をこころみる。
大きく息を吸って、ゆっくりはいて。もう一度大きくすって・・・
「お待たせ。」
誰かに肩をたたかれた。
「ひぇっ。」
変な声が出てしまった。振り向くとそこにいるのは松比良だ。受付を終わらせて俺に追いついてきたようだ。
「急に話しかけてくんなよ。変な声出ちゃったじゃないか。」
「ごめんごめん。」
振り向いたとき、受付の人たちや係員の人たちもこっちを向いていたような気がするが、見ないことにした。
気を取り直して、ホールのドアの持ち手に手をかける。ドアは取っ手が二つ付いている。手前に引くと開くようだ。
おれが右の持ち手に手をかけると、合わせるように松比良が左の持ち手を握る。
やはり緊張しているのだろうか。
自然と手がふるえてきた。よく見ると松比良の手もすこしふるえているようだ。
落ち着け、落ち着け。そう心の中でつぶやくと、俺はおもむろに口を開いた。
「こいつを開けたら俺たちもついに大学生だ。」
松比良は少し驚いたように俺の顔をみると、にやっと笑ってみせた。
「ああ、今から4年間、思う存分楽しもうな。」
「おう。」
今から始まる俺たちの大学生活は4年間という限られた時間である。4年間もあると捉えるか、4年間しかないと捉えるか、それは人それぞれだろう。だが、大切なのはその中身だ。俺たちは4年間で何を学び、何をやって、何を感じるのだろう。そして卒業するとき、何になっているのだろう。楽しみで仕方がない。
ああ、このふるえの正体は緊張なんかじゃなかった。楽しみで楽しみで仕方がなかったのだ。
一度息を整えて、二人はまっすぐ前を向いた。
「それじゃ行くぞ。」
「「せーのっ!!」」