入学式の朝はせわしない①
ドンッッッッ!
突然の大きな音に、俺は重いまぶたを上下に開く。
「びっくりした~。何だ何だ。朝っぱらから大きな音立てないでくれよ。ていうか、今何時だ?。」
そう言って、目覚まし時計を手に取る。時計は、長い針が1を、短い針が8からほんの少し抱け9にずれているところを指していた。
「8時5分じゃねーか!!!やばい!遅刻だ。」
布団から跳ね起きると、急いで身だしなみを整え、昨日用意したスーツへの着替えを試みる。しかし、高校生まで学ランだったので着慣れている訳もなく、ネクタイを閉めるのに手間取ってしまう。
ネクタイをいったん諦め、鞄に詰め込むと、そのまま飛び出すように玄関を開ける。
「あっぶね。鍵閉めるの忘れるところだった。」
鞄の小さなポケットから長い鎖のついた鍵を取り出すと、鍵穴に突っ込んで乱暴に左にひねる。本当にかかったかどうか確かめるため何度かガチャガチャと玄関を開けようとし、大丈夫なことを確認すると、ダッシュでエレベーターまで駆け寄る。
ここはマンションの5階であるため、階段よりもエレベーターを使った方が楽に降りれるのだ。しかし、エレベータ―の表示は下矢印の3階。だれかが下まで降りているようだ。
チッと1度舌打ちすると、今度は階段に目をやり、そのまま一階まで駆け下りた。
少し前には同じように黒のスーツに身を包み、急いで走っている女性が見えた。
俺と同じ新入生か。そんなことを一瞬だけ考え、そんなことを考えている場合ではないと思考を現実に戻し、腕時計に目をやる。時刻は8時25分。急がないと待ち合わせに遅れる。