おもしろい話~勇気と羞恥心を添えて~
「ま、今日はゆっくり寝て、体をやすめることが最優先だな。」
「松比良くんの言うとおり、今日はゆっくり休んでね。」
「そうよ。ゆっくり休むべきよ。」
「そうだな。って、なんであんたものっかってくるんだよ。」
「わたしも休むべきだわ。」
「知ってるよ!」
今日の俺、つっこんでばっかだな。
「なんだか疲れたしな。ゆっくり休みながらいろいろ整理するよ。」
「そのほうがいいわ。」
あんたのせいで疲れたんだよ。心の中でそうつっこんだ。
「じゃあ、俺らも今日のところは家にかえるわ。」
「またね、伊知地君。また明日。」
明日も来てくれるのか。やさしいなぁ鈴原さんは。
「二人とも、心配してくれてありがとうな。明日は大学も休みだし、ゆっくり休ませてもらうことにするよ。」
二人は俺の方をみてうなずき、ドアをガラガラと開けて出て行った。
二人が出て行った後の部屋は、先ほどまでとはうって変わってなんともいえない静寂に包まれた。俺とストーカー、もとい美犀津さんの呼吸音が部屋の中をこだまする。それをかき消すように、窓の隙間から風の音が少しずつ入ってくる。
気まずい・・・。何か話した方がいいのか。しかし、何の話題があるのか。天気?気温?今まで初対面の人と、何の話をしてたっけ・・・。手札が少なすぎるよぅ。
俺が口を開こうとする前に、
「なんだか気まずいわね。」
向こうから話しかけてきた。
びっくりした~。思ってることが出ちゃったかと思った。
「俺もそう思っていたところだ。」
「何か面白い話をしてほしいのだけれど。」
「急な無茶ぶりはやめてくれないか。」
いくら何でも急すぎるだろ。芸人さんに言っちゃいけない台詞ランキング上位に食い込んできそうな台詞だな。
「何?おもしろい話の1つもできないの。残念だわ。」
「いや、できるし。できるもん。」
できるったら、できるもん。急すぎてでてこないだけだもん。
本来は意地をはるべきところではないのだろうが、なんだかくやしい。
「そう。よかった。では、どうぞ。」
よし、やってやる。やってやるぞ。
「では、短めのエピソードトークを一つ。
これは俺が子どものころの話なんだが・・・。」
ある日、学校の友だちで鍋パーティーをやったんだ。まずは、部屋を真っ暗にする。そんで、各自持ち寄った具材を一気に全部鍋にぶち込むんだ。いわゆる闇鍋ってやつだな。鍋がぐつぐつ煮てきたら、じゃんけんで負けたやつから時計回りに一つずつ具を取っていく。自分が入れた具材はわかっても、友だちが入れた具材はわからない。そのドキドキ感がたまらねないんだ。闇鍋パーティーは4人でやったんだが、おれは3番目に食べることが決まったんだ。学校のくだらない話に花を咲かせながら鍋が煮え切るのを待っていると、ぐつぐつといい音を立ててきた。
「じゃあ、いきますか。」
と友だちのA君(仮名)が箸を取り、鍋の中につっこんだ。真っ暗な部屋で、ピチャッと言う音が聞こえたかと思うと、
「なんだこれ。」
とAが言ったんだ。
「どうした?」
と俺が聞くと、
「かみきれねぇ。せんべいじゃねーのかよ。なんだこれ?!」
とAが返した。
「大丈夫か?」
と心配になったBが電気を付けてみると・・・。
Aが鍋敷きを全力で食べてたんだ。
「そこで俺は言ってやったのさ。鍋敷きを食べるなんて、お前は鍋敷きマスターだなってね。」
どうだ!おもしろかっただろ。
「あのときのAの顔といったら・・・。」
思い出し笑いをしながら俺がそう言いかけると
「あまりおもしろくなかったわ。15点くらいね。」
なんだと?
「なんだ?15点満点か。英語の小テストみたいだな。」
「なにを言っているの?100点満点中よ。」
「なに?!」
「おちがよくわからなかったわ。まず、鍋敷きマスターってなに?なんにもかかってないじゃない。」
「あんたがおもしろい話をしろっていったんじゃないか。がんばったのに・・・。」
「だから、その頑張りを認めて10点あげたのよ。」
「それはどうもありがとうございます。
ん?15点じゃなかったか?残りの5点はなんなんだ?」
「友だちと闇鍋ってなんだか楽しそうじゃない。わたしもやってみたくなったわ。少しだけ、ほんの少しだけ興味を引かれたから、5点あげたの。」
「もしかして、闇鍋やったことないのか?」
まあ、ストーカーしているくらいだから、もしかして美犀津さんあんまり友だちいなかったりするのかもな。
「今、わたしには友だちが少ないんじゃないかって思ったでしょ。」
ギクッ。
「そうよ。私今まで友だちとかあんまりできなかったのよ。」
「そ、そうなのか。」
そんなカミングアウトされても・・・。
「ま、まあ、そのうちできるんじゃね?大学も入ってばっかりだし。出会いとかいろいろあるだろ。」
「・・・。そうだといいな。」
急にしおらしくするんじゃない。ちょっとかわいそうに見えてきちゃうでしょ。いや、でもストーカーだしなぁ。う~ん。
少し悩んだ末、こう言った。
「どーしてもっていうなら、俺が友だちにでもなろうか?」
恥ずかしい台詞だが、まあしかたがない。ちょっとかわいそうだったからだ。断じて美人だからとか、やったー、みたいな笑顔が見たいからではない。断じて。
「申し出ありがとう。でも、少し考えさせてもらうわ。」
「なんでだよっ!おれの勇気と羞恥心を返せよっ!」
YESの返事が返ってくると思っていたおれはびっくりしてしまった。恥ずかしかったのに・・・。




