いつかの夕暮れ①
時刻は夕方の5時半頃。1人の少年が川の横の道を自転車で走っていた。川の横の道といっても、緑の草が生えた土手ではなく硬いコンクリートで舗装された土手の上にある道である。つまりは青春アニメで男女が2人仲睦まじく自転車を押しながら歩くような道ではない。年齢はおそらく10歳から12歳くらい、小学生だろう。友達と遊んだ帰り道だろうか。楽しそうに鼻歌を歌いながら自転車をこいでいる。
突然、少年の前に何かが現れた。
「危ない!」
キィィーッと甲高い音がその場に鳴り響く。どうやら少年は倒れそうな自転車をなんとかバランスをとりながら止めることに成功したようだ。
「急に飛び出してきて危ないじゃないか!もうちょっとでぶつかるところだったぞ!」
少年は自転車から降り、目の前に現れた何かに食ってかかる。外で遊んできたのか、ズボンはほとんど汗でぬれており、唯一ぬれていないお尻の割れ目の部分が非常に目立っている。
一瞬間があった後、
「ごめんごめん。君に会えたのがうれしくって、つい。」
突然現れた何かの正体は、おじさんだった。おじさんはニヤニヤしながらこう続けた。
「久しぶりだね。会えてうれしいよ。君にはいろいろお世話になったもんさ。」
少年には、おじさんの目尻が少し光っているように見えた。
「おじさんは僕のこと知ってるの?」
「ああ、もちろんさ。君はまだ僕のことを知らないだろうけど。まあ、いつかわかるよ。」
おじさんはそう言うと、右手を上着のポケットに突っ込み、そこから手帳を取り出した。