スーパーに行こう②
「何を探しているんだい。」
少し声が近づいてきた。誰に話しかけているんだろうと一瞬思ったが、再度、昼食選びに没頭しようとする。
ん~、カツ丼とかないかなぁ。
「何を探しているんだい。」
ん~、唐揚げ売ってたりするかなぁ。
「何を探しているんだい!」
ビクッ。大きな声に体が少し反応してしまった。振り向くと、店員らしきエプロンを身につけた男の人がこちらを向いて立っていた。さっきから無視されてるなあと思っていたが、どうやら無視していたのは俺だったらしい。
「君、何を探しているんだい。」
店員は、再度同じ問いかけを繰り返す。
正面にいる俺に対して話しかけているのだ。逃げられる状況ではない。脳内で何度かにげるコマンドを選択するが、にげられなかったと表示されるばかりである。ちなみにどうぐコマンドやじゅもんコマンドは存在しない。やはりたたかうしかないのか。
「お昼ご飯を探しているんですが。」
それとなく答えてみる。
「何が食べたいんだい。」
少し考えてみたが、どうすればいいのかわからなかったので、正直に答える。
「カツ丼ですかね。お腹がすいたのでがっつりいけるものを・・・。」
「わかった。カツ丼でいいんだな。今から作るからちょっと待っててくれ。」
「え。いいんですか。」
まじか。そんなサービスがこの世にあったのか。逃げなくてよかった。
「かまわない。今日は入学式だったのだろう。せっかくだからお祝いってことにしといてくれ。」
どんどん話が進んでいく。というか、どうして俺が今日入学式ってわかったんだ?
「それは君が今スーツだからさ。見た感じ高校生くらいであることと、今日は○○大の入学式であること。そして決め手は俺も去年○○大の入学式後のこの時間あたりにここによったことだ。」
思ったことが自然と口に出ていたようだ。しかし、一つわかったことがある。どうやらこの人は俺の通う大学の先輩らしい。
「どうせ、大学の探検でもしていたのだろう。あそこは広いからな。」
「すごいですね。全部正解です。」
「俺も去年探検したからな。」
どうやら、同じ思考回路の人は俺以外にもいたらしい。なぜだかわからないが、少し恥ずかしさを覚えた。
「簡単な推理だよ、ワトソン君。」
そう言うと先輩はかけてもいないめがねをクイッとあげる仕草をする。
やっぱりなんだか恥ずかしい気分だ。
「少し時間がかかるからその辺でも見てくるといい。そうだな。10分後くらいにできあがると思う。そしたらまたここに来てくれ。」
といいながら店員しか入れないドアを手で押しながら開くと中へ行ってしまった。