探検はあっという間に終わっていく
「いまから大学内を探検しようと思ってるんだけど、いっしょにどう?」
「いいの?急についていっても迷惑じゃない?」
「全然!人数多い方が楽しいと思うし、こっちが誘ってるんだ。迷惑なんて思ってないよ。」
「伊知地もいいよな?」
「お、おう。大丈夫だ。」
おいおい、マジかよ。こんなにさらっと誘えるのか。人数多い方が楽しいとか陽キャの考えだろ。松比良すげーな。いつのまにこんな技術を・・・。
おれはある程度仲良くなるまで時間かかるんだよぉ。ましてやこんなにかわいい子なんて緊張しまくりドッキドキだよ。
落ち着け、俺。平静を装うのだ。賢者モードになれ。
「それじゃあ行こうか。」
そう言いつつ、おれは歩き出した。
後ろを松比良と鈴原さんが付いてくる。
「しかし、まあひろいなぁ。」
「そうだね。聞いたところによると、大学内を自転車で移動する人もいるらしいよ。」
「それはすごいな。俺たちも今度自転車見に行くか。」
・・・
「これが俺たちが明日から通う校舎か・・・。でかいな。これ何部屋あるんだよ。」
「もはや結構大きめのアパートみたいな感じだよね。」
「アパート笑みたいな感じ。」
「もう。今ちょっと馬鹿にしたでしょ。」
「してない。してない。」
いいなあ。松比良。鈴原さんと仲良く話せて。おれもちょっと話しかけてみよう。
一度も話しかけることなく、大学探検が終わってしまった。
一度も話せなかったわけではない。なんどか、鈴原さんから話しかけられはした。
が、うまく言葉が出なくて噛んだりしてしまう事が多かった。
「はい。そうでしゅね。」を何回言ったことか。
「ひゃい。」じゃなかっただけましなのだ、と自分を慰める。