俺の力
少しだけ。
ほんの少しだけ俺のことを話そう。
俺は時間を巻き戻すことができる。
何言ってんだ、こいつ。そう思われても仕方がない。もしこの力がなかったら、俺だって「なんだこいつ」と思っていただろう。
人は何にだって自分を規準に物事を考える。その規準とやらが集まって、常識になるのだ。つまり、常識にはある程度の幅がある。
もしその常識の幅を超えたものがあるならば、人はそれをありえないと否定し、突っぱねる。もし仮にそれを直接見ることができたとしても、「すごい」の一言で片付けて理解することを避け、背景になる努力や苦労を知ろうとしない。
まあ、その、なんだ。何が言いたいかというと、この力のことを誰かに言ったところで、理解されないと言うことだ。
だからこの力のことは誰にも話していないし、話そうとも思わない。いや…、もしかすると本当はどこかで話すのを怖がっているのかもしれない。
それに、俺自身この能力についていまいちわかっていないのだ。
なんでこんなことができるのか。
どういう原理でできているのか。
どれだけ時間を巻き戻すことができるのか。
ほかにもいろいろわからないことだらけなのだ。
今の俺にわかるのは時間を巻き戻すことができるという事実だけだ。
だがそれでいいのかもしれない。
それだけで人を助けることができるから。そう、先ほどの階段での出来事のように。
話を戻そう。
さっき俺は女性が倒れ込むほんの少し前まで時間を巻き戻し、彼女が倒れ込む前に支えた。そして倒れるのを防いだのだ。