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後編

「私も、好きです」


その一言に、ぎゅうと心臓が掴まれたみたいな感覚がした。ミアは鼻をぐずらせながら、リアムの胸元を濡らしている。その自分に体を預ける姿に、内心ほっと息をついた。ぎゅ、と苦しくない程度に力を強める。ミアが、リアムの背中に手を回した。


(でも、本当に危なかった…!)

(あとちょっとで逃げられてしまうところだった)


さらさらの髪に指を通す。本人は凡庸だと評しているけれど、リアムにとっては可愛くて仕方がない。それに、周りの評価は本人の考えとは違うものだ。素朴で、誰にでも優しく、いつでも笑顔の姿は、皆から慕われている。何より、周りがどう思うかなんて関係なく、リアムにとっては可愛くて仕方がないのだ。


しかし、リアムはミアの父親から、節度ある婚約関係でいるようにと厳命されている。そのために、近づきすぎないようにしていた。そのせいで誤解を招いて、ミアの心を傷つけているのであれば、それも改めた方がいい。ミアの父親には嫌われたくはないが、ミア本人に嫌われる方が困る。


これからは、もう少し気持ちを行動に出すようにしよう。ミアのこめかみに軽くキスを落とす。それだけで、耳まで真っ赤に染まっていた。


(あー…かわいいなぁ…)


そっと体を離した。ミアの顔はうっすら赤く染まっている。耳だけが真っ赤になっていた。瞳はうっすらと潤んでいる。その姿に笑みを溢した。


「そろそろ教室に戻ろうか」

「あっ、そうですね!」


ぱっとリアムから体を離して、歩き始める。その小さな後ろ姿に続いて、リアムも歩き始めた。ふわふわと、綺麗な髪が歩くたびに揺れている。


ミアはこの婚約が政略的なものだと思っている。


けれど、これが何の打算もない、何の政略的利益のない、

ただの、君を独占したいだけの欲に塗れた婚約だと知ったら、どんな顔をするだろう。


(まぁ、それを知るのはもう少し後でも良いか)


だが、今回のことは放置しておけない。後ろにちらりと目線をやると、木々が微かに動いた。視線だけでリアムの意思を把握して、彼らが動いたことがわかった。


「リアム様?どうかしました?」


ミアが振り向いて、首を傾げている。それに笑って答えた。足早にその隣に並ぶと、背中を押して一緒に歩き始める。


「何もないよ。早く教室に戻ろうか」

「はい!」



■■



「リアム様」


屋敷の執務室で作業をこなしていると、背後からそっと黒い影が近づいた。その姿を目をやることも、手を止めることもない。


「あのご令嬢の件ですが、完了いたしました」


そっと綴じられた数枚の紙を机に置いた。その紙を手に取り、ぺらぺらとめくる。目を通し終えると後ろに差し出した。黒い影が紙を再び手に取る。


その時、こんこんと扉がノックされる。リアムの返事を待って、扉が開かれた。そこには執事が立っている。リアムの後ろの影はもういなくなっていた。


「ミア様がいらっしゃいました」

「分かった」


すぐに椅子から立ち上がって、部屋を出た。足早に廊下を歩く。執事はその後ろをついてきていた。客間の一つ、いつもミアしか案内しない一室に入っていった。


「リアム様!」

「ミア、いらっしゃい」


ミアの隣に座った。机には、お菓子が並べられている。部屋の扉は開けられているが、周りに人の気配はない。


「今日は髪の毛上げてるんだね」

「そうなんです!どうですか…?」

「可愛いよ」

「えへへ…ありがとうございます」


綺麗に整えられた髪を崩さないように、そっと頭を撫でる。リアムを見上げて、はにかんだ。その照れを隠すように机のクッキーを手に取った。そのうち一枚をリアムに手渡す。


「美味しいですね」

「そうだね」

「あっ、そういえば聞きましたか?」

「ん?」


ミアは残りのクッキーを口に入れて、ごくんと飲み込んだ。あたりを見回すようにしたあと、リアムの耳元に口を寄せた。


「マリーナ様が修道院に行くことになったって…!」

「…そうなの?」

「はい」


真剣な表情をして頷く。リアムは全部知っていたけれど、知らない振りをして頷いた。近づいていた体をそっと離して、座り直している。


「行くことになる理由なんてないと思ったのですが、大丈夫なんでしょうか…」

「パレス家のご当主は間違った判断はされないから、きっと必要なことだったんだろう」

「そうなんですか」

「きちんと本人が反省していれば、戻れることもあるだろうから心配しなくてもいいよ」

「それなら、良いのですが……」

「うん。ミアが気にすることじゃないよ」


ぽんぽん、と頭を撫でた。机のお菓子を手に取って、ミアに食べさせる。その行動に、ミアは頬を赤くする。もぐもぐと美味しそうに食べる横顔を見て、リアムは笑みを浮かべた。


(これで、もう邪魔するやつはいない)


ミアの横顔を、じっと見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸せでラブラブ。 [一言] だけど、怖い、こわい、コワイ・・・。
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