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女王の龍は暁光に舞う  作者: 瀬尾ゆすら
第5章 新たな導き
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第22話 再会<2>

 その日の夜、アルフたちは、街の中央にある要人向けの迎賓館に移動した。王女が宿泊しているという噂が街中に広まり、滞在していた宿屋の周辺に沢山の野次馬が集まってしまったからだ。


 アルフは自分の身分には全く似合わない広い客室を与えられたが、むしろ心が落ち着かなかった。

 眠る気になれず、高台にある迎賓館の庭園から、エネルモアの夜景をぼうっと眺める。するとふと、背後に人の気配を感じた。


「まだ起きていたんですか」


 その人物――サウードは、アルフを見つけるなり腰に手を当て、呆れたように嘆息する。


「明日は、日の出と同時に城に向けて出発ですよ。早く寝てもらわないと困ります」

「それはお前も同じだろう」


 アルフは庭園を囲む鉄の柵にもたれかかりながら、隣にやってきたサウードに抗議した。同い年の二人はたまに剣の稽古をしていた仲だが、性格は真逆だ。


「私はもう休みました。今から部下と交代して、リサ様のお部屋の警護です」


 サウードの言う通り、彼は白い軍服に身を包み腰にレイピアを提げ、「今から寝る」というよりは「今から仕事」という格好をしていた。


 しばらく、二人の間に気まずい沈黙が落ちる。初春の夜の空気は肌寒く、耳元や指先がじわりと冷えた。


「……怒らないのか。俺のこと」


 眠らぬ街の明かりを見つめながら、アルフはようやく、ずっと気にかかっていたことを口にできた。


 リサを城から連れ出しただけでなく、夢魔に魔法で戦わせた。王女の御身を危険に晒した罪で、アルフはサウードに半殺しにされる覚悟でいたのだ。


「王女様がご自身の意志で城を飛び出し、そのお供にあなたをお選びになったんです。私があなたを怒る道理などありませんよ」


 こちらを向きそう答えるサウードの表情は、複雑だった。


 「リサの行く道を守る」――これは生前の国王から課せられた彼の義務であり、建前だ。仕事を離れたサウードの個人的な本音が、建前と同じであるわけがない。


 そしてアルフも、彼と同じ葛藤を抱いていた。

 「リサが女王になるのを見守る」。そう約束した反面、王女には、悪魔との戦いとは最も離れた場所で、痛みや汚れを知らずに暮らしてほしいという気持ちもある……。


「むしろあなたには、感謝しているんですよ。あなたがリサ様の手を取らなければ、私は一生、王女様のご意志を誤解したままだった」


 サウードに頭を下げられるが、アルフは気まずさに視線を逸らすことしかできなかった。


「感謝される義理などない。俺もお前と同じだったんだ。リサが女王になりたがっているだなんて、考えたこともなかった。あの日の夜、リサの手を取ったのは――ただの衝動だ」


 あの日の夜、アルフの研究室で。白く柔らかい王女の手に触れられて、アルフは抗いようのない何かに溺れたのだ。


「俺はなぜ、リサの手を取ったのか。未だに、あの時の自分の行動に理由をつけられない」


 アルフがそう呟くと、サウードは弾かれたようにばっと顔を上げる。こちらを見た彼は細い眉を片方だけ吊り上げていた。怒っているようにも、アルフのことを馬鹿にしているようにも見える表情だ。


「……あなた、頭は良いのに、そういうことには気づけないんですね」


 唐突に発されたサウードの毒に、アルフは「は?」と素っ頓狂な声を上げる。心外だった。「そういうこと」が何を指すのか分からず、狼狽えたように右耳のピアスに触れる。


「お前、やっぱり怒ってるだろ」


 そのまま踵を返そうとするサウードの背に問いかけるが、彼は何も答えない。


「早く寝てください。あなたが万全の状態で剣を振るえないと、王女様もご不安でしょうから」


 そう言い残し庭園を後にするサウードの後ろ姿を、アルフはぽかんとしたまま見送った。

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