4.飲み会(前編)
飲み会が始まる直前までです。
後編は来週投稿します。
遂にこの日が来てしまったか。
苦手な人も多いだろうこの行事。
そう、飲み会だ。
飲み会は人が多い、拘束時間が長い、金がかかるの三重苦だ。
そもそも俺は酒は飲めないし、大食漢でもないし、人も苦手だ。
飲み会が決まった日から憂鬱になり、その日が近付くにつれて頭が重くなるなど体調に変化が出てくる。
だが人が苦手だからこそ、飲み会に参加して少しでも関係を良くしておきたい。
話したことがあるのとないのとでは、話しやすさに雲泥の差がある。
コース料理に飲み放題が付いて3500円の出費なら参加した方が得策だろう。
飲み会の対策は難しいが、気を付けるべきポイントはある。
特に重要なのは席順だ。
今日の飲み会はそこまで気を張るものでもないから上座は気にしなくても良いだろう。
その代わり席順が決まっていないので、先に入った人から好きなところに座っていく。
入口に近いと注文する係になる可能性があるが、奥に行き過ぎるとトイレに行けなくなる。
あまり遅く入ると席が埋まっていて危険な席になる可能性が高くなるが、早く入りすぎても俺の周りに人が座ってくれなかったら寂しい。
タイミングが重要だ。
さてと、まずは集合場所を確認するためになるべく早く行動する。
道に迷って遅れると飲み会前に致命傷を負うことになるからな。
とりあえず集合時間の1時間くらい前に到着すればいいだろう。
ふぅ、1時間半も前に着いてしまった。
当たり前だが集合場所には誰もいない。
確認もできたし近くの本屋で時間を潰すか。
なぜこんなにも早く来る必要があったのか。
それは集合場所に到着する時間も、早過ぎても遅過ぎてもいけないからだ。
早過ぎるとよく知らない相手と2人きりで気まずい時間を過ごす羽目になる。
遅過ぎると『こいつ遅いな』と思われて、皆の注目が自分に集まることになる。
最悪の場合、俺のことなど忘れて飲み会に行ってしまうかもしれない。
そうならないために集まり具合を遠くから確認し、良きタイミングでさも今着いたかのようにさりげなく登場する。
本屋は好きだ。
店員が押し売りしてくることもないし、店内は常に静かだ。
ここだけ外の世界よりも時間が流れるのが遅い感覚すら覚える。
おっと、本に夢中になっている間に集合の15分前だ。
おっ、もう結構集まってきたな。
そろそろいいだろう。
あまり目立たないように後ろからそっと集合場所に向かう。
「お疲れでーす」
俺は近くの人だけに聞こえるくらいの声量で挨拶する。
「お疲れ様ー」
よかった。顔見知り程度だが、きちんと返事をしてもらえた。
第1段階はクリアだ。
「あんまり話したことなかったよね。今日はよろしく!」
「あ、そうですね。よろしくです」
すごい。すんなりとこっちの懐に入ってくる。
これが俗に言う陽キャというやつか。
いや、これが普通なのか?
わからないが、会話が苦手な俺でもなんとなく話せてしまう雰囲気がある。
今日の飲み会は大丈夫な気がしてきたぞ。
そうこうしているうちに全員集まったようだ。
早速居酒屋に移動する。
初めに言った通り、居酒屋に先に入った人から好きな席に座っていく。
そのためここでの位置取りが重要だ。
列の中間辺りをキープ&キープっと。
居酒屋に到着する。今日は座敷のようだ。
入店してすぐに下駄箱に靴を入れる。
「私の靴も一緒に入れていい?」
下駄箱の鍵である木札を取ろうとしたところで、さっき挨拶した人が話しかけてきた。
「私すぐに鍵無くしちゃうから持っててもらえるとうれしいな」
「あ、いいですよ」
俺はこういう物を無くしたことがないから大丈夫だろう。
座敷に入ると席を確認する。
ほー、もうグループが大体決まっているみたいだ。
手前の方は幹事とその仲間達が多く集まっている。
注文などで店員と話すことが多いからここに集まって座ってくれているんだろう。
感謝だ。
奥の方はタバコを吸う人達が集まっている。
最近のスモーカーは一所に集まってタバコを吸い、周りに煙がいかないように気を配ってくれる。
これも感謝だ。
というわけでどちらでもない中間辺りの席を狙う。
するとまたもさっきの人が目に入る。
「ここ空いてるよ!」
手を振って俺を呼んでくれているようだ。しかも隣の席。
願っても無いことなのでお呼ばれすることにする。
「じゃあ、失礼します」
女性の隣に座って緊張しないのかって?
人見知りにとって男も女も関係ない。
少しでも知っている、話したことがあることの方が重要だ。
「全員座ったみたいなので、始めたいと思いまーす!」
幹事が大きく通る声で飲み会開幕宣言を行った。
次に来る言葉はもうわかっている。
「じゃあ、とりあえずビールの人!」
きた! とりあえずビールコール!
予想通りだ。
俺は酒が苦手だがビール1杯程度は飲めるのでここで手を挙げる。
最近はビール以外も普通に頼める時代になったが、俺にはまだハードルが高い。
皆の時間を奪って、皆に注目されて、皆の前で注文する。
畏れ多いことだ。
それなら多少苦手でもビールを頼んだ方がマシだ。
後でこっそりソフトドリンクを頼めばいいしな。