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エンシェントリスト  作者: 福園弘之助
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1話 出会い

『本日の天気は快晴。昼頃から浮遊都市エルピスの停泊5日間により影の中に入ります。お洗濯は午前のうちに!気温は26℃――』


 机の上の古ぼけた小型テレビから流れる天気予報を見ながら大きく欠伸をする。

このテレビは年代物で20世紀のものがまだ動いている。多少叩かないと動かない時もあるが。

倉庫から見つけて修理した時から愛着が沸いて買い替えれないでいる。


「昼から影入りかぁ……湿気で本がカビるんだよなぁ」


 初夏の朝。週初めということもあって外には登校する学生がちらほらと見える。

そういう自分も学生なのだが、祖父が残したスラム街の古書店を引き継いだ俺は登校せずに毎日店番をしているわけだ。

特例で3年までは上がれたがそこから3年間留年している。さすがに卒業を認めることは出来ないらしい。

まぁ、親戚に言われて席だけ置いているだけで卒業するつもりはないのだが。

6年間行ってない高校に今更行ったとしても学生服を着て勉強も今更できないだろう。

そもそも授業の内容なんてわからないし、勉強する方法は別の方法もある。

仕事も古書店ともう一つの仕事があるわけだし……

そんなことを考えながらしばらくボッーとしてると軽快な入店音と共に入口の扉が開く。


「ふっふふー、また暇でもしてるのかな?湊兄さんは」

「リンクスで見れる時代に紙の本なんて誰も買わないからね。ずっと暇だよ」


 今の時代、紙の本というものを買う人はあまりいない。紙の本自体もあまり作られていない。

昔は大量に作られてはいたみたいだが、今では手首に着けるリンクスという端末のおかげで必要がなくなった。

紙の感触もページをめくる動作、感じる重さも設定次第ではすべて得ることが出来る。

 それと、店に入ってきたのはつややかな黒のきれいな長く伸びた髪、翡翠のような瞳の色のスレンダーな少女。

近所に住む鷲宮あゆみという女の子だ。

今年から高校に上がったこともあって毎朝制服姿を見せてから登校していく。

最初は微笑ましかったが今ではもう冷やかしにしか見えない。


「あゆみも毎朝飽きないな」

「湊兄さんにいかに学校へ通うことが素晴らしいかを身を削って教えてあげてるんですー」

「いや、くるくる回られても何も伝わらないけど。それより早く学校へ行きなよ」

「ふっふふー、結構冷たい……じゃあ、これ返すのと、新しいの借りてくね!それじゃあ行ってきます!」


 バタバタといくつかの本をもって学校へと向かって行った。

店の商品を勝手に持っていくのも見慣れてきた。読んだら返してくれるから別に良いのだが。

うちの店はあまり評判は良くない。だから容姿もそこそこで成績も良いあの子がここに通うのはあまり良くないんだがな。

評判が悪いのは俺のせいでもあるのだが。彼女の将来を憂いつつ適当に手元にあった雑誌を掴んで開く。


『アイドルグループ・トラオアーリーベ電撃デビュー!』


 3人組の容姿端麗な女性が並んでいる。

アイドルの紹介雑誌だろうか、デビューするアイドルが巻頭カラーで紹介されている。

ふと気になって同じ雑誌の違う号の表紙を見てみてもかなりの頻度で表紙を飾っている。

かなり人気のアイドルグループだったのだろう。

リーダーであろう真ん中の子が一番表紙を飾っている。中に気になる一文が書かれている号を見つけた。


『元リーダーの橘茉莉の失踪から1年。伝説のアイドルグループの今を追う!』


 どうやら表紙の子は行方不明になったらしい。かなり騒がれたみたいだ。

世界的に人気もあったのだろうか?様々な国で捜索支援のクラウドファンディングが始まったと書かれている。


「かなり期待されていたグループなんだろうな……ん?なんだこの音は」


 キーンと甲高いエンジン音が近づいてくると同時に大量の砂埃が吹き上がる。

反重力物質によって地面につくことがないホバーカーと呼ばれる空を飛ぶ車が店先に停車する。

風を発生させて進むので周りにも多少影響がある。お蔭で窓が砂まみれだ。


「なんなんだ……一体」


 軽快な入店音と共に体格のいい男とフードを被った小柄な人が入店してくる。

深くフードを被っているせいで顔は見えない女の子……か?まるで人攫いみたいだ。


「騒々しくて悪いな。かなり急いでいてな」

「叔父さん、ホバーカーで店前に来ないでくれ。ただでさえ評判が悪いこの店の評判がまた落ちちまう」

「すまないな。だが、この店に落ちる評判なんて物はないだろう」


 祖父の店を引き継ぐことを許してくれたのは体格のいい男。マイク叔父さんだ。

この店を売ろうとしていた親戚達を説き伏せてまで俺の意向を汲んでくれた人だ。

これからこの街の上空にくる浮遊都市エルピスの警備隊の隊長をしている叔父のいうことには逆らえなかったのだろう。

その恩返しというか利用されているというか、叔父のお願いにはなるべく答えるようにしている。ほとんどが金銭絡みだが。


「それで、今日は何の用なんですか?またギャンブルで金をすったとか?」

「いや、今日はその用ではない。この子をちょっと頼みたくてな」

「右にいる子の事か?」


 2m近くある叔父のせいで思ったより小さく見えるが、右にいるフードを深くかぶった小柄な子。身長は160位だろうか?

表情は見えないが緊張しているのだろう。しきりに両の掌を胸の前で交互に揉んでいる。


「あぁ、色々と厄介でな。話が長くなるから詳細は省くがこの子をここで預ける」

「預かる?ならエルピスで預かればいいじゃないか。申請すれば保護してもらえるだろ?保護施設じゃないんだぞ、ここは」

「エルピスでは出来ない事情がある。それと上からの命令でな、足の付かない場所で匿う必要がある。他にも厄介な事情が――」

「はい、待ってください。私が説明します。私の事なので」


 叔父が何かを言おうとすると、小柄の子が手を挙げて言葉を遮る。

深くかぶったフードを脱ぐと白髪で琥珀色の瞳をしている少女が現れた。

この子、何処かで見た事がある。


「初めまして。私は橘。橘茉莉といいます」


 深々とお辞儀をしてこちらを見つめる。唇をしっかりと一文字に結んで。

大きく潤んだ瞳は心なしか涙が浮いているように見える。

その表情を見てハッとする。手に持っていた雑誌と交互に見る。

髪と目の色は変わってしまっているがこの名前とこの顔付、容姿。間違いない。

200年前の雑誌で行方不明と告げられていた女の子だ。

雑誌の表紙を指さししながら叔父と橘茉莉と名乗る女の子に向ける。


「まさか、この雑誌の子?」

「はい。私で間違いないです。ちょっと髪の色は変わってしまいましたが……」

「200年前の人間ってことでいいのか?」

「たぶんそう……だと思います。なので――」

 首をかしげて、明確ではないが答えてくれる。

返答を聞くと急にめまいがして頭を抱える。叔父は本当に厄介な話を持ってきてくれたようだ。


「お願いします、私の記憶に潜ってください……」

 

 茉莉はその大きく、潤んだ瞳で俺をジッと見つめていた。

閲覧していただきありがとうございます。

誤字脱字多いかもしれませんが、長くのんびり更新していけたらと思ってます。

よろしくお願いします。

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