幼馴染はお世話が必要
昨今、女の子の幼馴染みがいるということだけで、友人たちからは羨ましがられるというパターンがある。
確かに、ライトノベルやアニメを見ていると、幼馴染の男女で花の学生生活を謳歌している姿を見ると、俺にもこのような幼馴染が欲しいと思ってしまうのは男子生徒の性だろう。
しかし、それはラノベやアニメで展開であって、実際問題は幼馴染がいても想像通りにはいかない者なのだ。
ツンケンしている幼馴染は、ただ単に嫌われているだけの可能性が高く、そもそも長七時だからといって連絡を取り合う中でもない。
そもそもが、友人達にも互いが幼馴染だと話をしていないまである。
つまり、幼馴染だから甘酸っぱい学生生活を送れるわけではないということを、ここに書き記しておきたい所存なのだ。
自室で、テレビ放送されていたアニメを見ながら、そんなことを呟いていた。
一人、休日の夕方を満喫している。
意外に、外で遊んでいなくてもこうやってのんびりと自室でアニメを鑑賞しているのが、何気に幸せなひと時なのだ。
神谷大地として、この家に生まれて17年。
小学校、中学、高校と自宅から近い場所で育ち、来年はついに大学進学か就職なのかと人生の大きな分岐点になる、その少し前。
小学校では女の子にちょっかいを出すそれなりの悪ガキで、中学になると急に大人ぶってみて周りから恥ずかしい視線を向けられたこともある。
今は黒い髪に戻ったが、赤とか金とか目立つ色にとりあえず染めてみたこともあるが、何か変化があったわけでもない。
髪の毛が痛むということを学び、それからは黒髪男子で過ごしている。
俺も彼女が欲しい、甘酸っぱい高校生時代を過ごしたいという願望はあるが、その夢が遠く叶わない理由が一つ、俺にはあった。
コンコン
部屋の扉ではない方向から、何かをノックする音が室内に響く。
それは、窓が設置されている方向だ。
振り返り、視線を向けるとそこには誰の姿もない。
幽霊? そんなわけもなく、窓を開けて少しだけ視線を下に向けてみると、窓枠にしがみついている一人の女性の姿があった。
呆れながら、その手を取り室内へと引っ張り上げると、彼女は普段通りの笑みを浮かべる。
「いや、参った参った! 窓を開ける前に踏み外しちゃって」
「それ以前に、窓から入ってくるなよ」
てへへと、栗色の髪を撫でて褒めてもいないのに頬を染めているのは、隣の家に住む一つ年上の女性の青井心だ。
くせっけの髪が所々目立つ、ラフなTシャツ姿で異性の部屋に訪れるとは思えない姿をした彼女は、俺の幼馴染である。
年上で、本来お姉さんとして世話をしてくれるというのが、幼馴染的テンプレートなのだと、俺は思っていたのだが、彼女に関しては違ってくる。
料理、洗濯、掃除、お洒落、あらゆる女性が得意としている分野が壊滅的で、幼少のころから逆に俺が世話をしてきたという経歴を持つ女性だ。
幼馴染に理想を抱かない理由も、彼女との付き合いからなのだ。
もちろん、心のことが嫌いなわけではない。
人間としても、幼馴染としても彼女のことは好意的に思っているが、それとこれとは別だ。
今日も、何を目的にこの部屋に来たのかを尋ねる前に、窓枠ダイブで汚れた頬を軽くウエットティッシュで拭いてあげてから問いかけた。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「そうそう、私ねお腹が空いてしまして」
恥ずかしそうに、お腹を押さえて告げた心に苦笑を浮かべる。
今日は、彼女のご両親は仕事だったか……
俺の家にも今は両親がいないので、彼女のご飯を用意するのは必然的に俺の役目になってしまう。
「一階に降りよう、適当なのになりそうだからチャーハンとかでもいいか?」
「うん! だいちゃんが作ってくれるご飯なら何でも良いよ! ありがとう愛してる!」
そう言って、背中に飛びついた心をズルズルと引きずる形で、一階に降りて彼女の食事を休日の今日も俺は作るのだった。
……俺も、どこか理想的な女性にお世話をされたいものだ。