下り吉備SA再び
六月に、山陽自動車道下りの吉備SAでおいしい牛串に巡り合った。
七月も同じ道を通ったのだが、時間がなく、吉備SAに寄ることはできなかった。
八月に同じ道を通ったとき、吉備SAに寄ることができた。
ところが朝八時三十分には、店が開いていなかった。九時かららしい。
そして昨日、九月三日、無事に店が開いている時間に吉備SAに寄ることができた。というか、開いている時間に着くよう、出発時刻を調整した。
「あんたも食べるやろ?」
と息子に聞いたが、
「今そんなん食べたら昼食が入らんようになる」
と断られた。
さあ、待望の牛串である。
店の名は、福吉。
品名は、岡山県産和牛串焼。税込八百円。
「出来上がるまで二分ほどかかります」
前回と同じことを言われたので、店の前にあるオープンテラスの椅子に座って待つ。鬼平犯科帳の十九巻を読んでいると、焼き上がりましたよ、と声がかかった。ちなみに、前回の店員さんは二十代か三十代くらいの女性だったが、今回は四十代くらいの男性だった。
受け取った牛串を包みから取り出した。
「うん?」
見た目がちがう。
前回食べた牛串は、見るからにフィレだったが、今度は脂の筋が入っていて、フィレには見えない。
かぷり、とかじりついた。
ちがう。
歯触りが全然ちがう。
この前食べた牛串には、こんなに硬い筋はなかった。
もう一度、かぷり、と二口目をかじる。
なんだか脂でぎとぎとだ。塩胡椒の加減も、雑だと思った。
むしゃむしゃと、牛串をかじり、咀嚼し、腹に収めた。
おいしくなかった。
いや。焼きたて熱々の牛串として、それなりのおいしさはあった。しかし前回味わった感動に相通じるものは、どこにもなかった。
明らかに前回と肉質がちがう。さらにいえば、焼き方もちがう。
そのうえ、後味がよくない。胸に何かがつかえたような不快感が、しばらく残った。
私は、しょぼんとした気持ちで吉備SAをあとにした。
息子の運転でドライブを続けながら思った。
あの店の牛串は、素材の品質にばらつきがあるのかもしれない。この次行ったときには、またうまい牛串にあたるかもしれない。それはそれで楽しみなことだ。そうでないとすれば、最初の一回は大変な幸運だったわけで、それはそれでうれしい。
それにあの店には、あと二品ほど、ほかのメニューがあった。それを食べてみるのもいいではないか。
食の探索は、当たりもあるし、外れもあるから、楽しいのだ。つづら織りの山道を上るように、少し歩いた先には思いもよらない景色が待っている。
そもそも、同じ店に二度三度続けて入って、同じような満足が得られることのほうが、むしろ珍しい。その珍しい店も、何年か通ううちには、味が変わったり品質が落ちたりするものだ。通い続けても新たなうまさを味わわせ続けてくれる店があれば、そういう店に出会えた幸運に感謝すべきだ。
今、私は、自宅から歩いて通える範囲に、そういう店を二軒知っている。ありがたいことだと思う。
(2023年9月4日執筆)




