下り線吉備サービスエリアの牛串
私は、それなりによく高速道路を利用するのだが、長距離を走るとき、小腹がすくと、牛串を買って食べることがある。しかし、多くの場合は十分な満足感を味わうことがでない。
固くて汁気がない牛串。
すかすかな牛串。
脂ぎった牛串。
食べるたびに、これじゃない感を味わうことが多い。
ところが、である。昨日、うまい牛串に出会った。
山陽自動車道路を西に下っていたとき、トイレ休憩した吉備SAで、ふと目についた牛串があった。
建物の外側にある、テント風の店舗に、串物三種類のメニューが出ていた。
その一番上にあったのが牛串だ。
何とか牛というブランドが書いてあったように思うが、はっきり覚えていない。
このSAに寄る前に、三木のSAで、鶏五目ご飯のおにぎりを買っていた。二個で税込220円である。
そのおかずに牛串というのは、なかなか贅沢でよいではないか。
値段は八百何十円だった。少し高めだが、注文し、千円札をトレイに乗せた。
「二分ほどお時間を頂きます」
と言いつつ、スタッフの女性が牛串を取りだして、塩胡椒を振り、鉄板に乗せ、上から鉄の塊を押し当てた。
「テイクアウトでお願いします。あとで食べますので」
ちらと見た牛串は、まったく火の通っていない状態だった。姿がいい。美しく切り立った赤身肉だ。
これは期待していいかもしれない、と思った。
お釣りを受けとって建物の中に入り、飲み物を買ってから店に戻ると、もう牛串は出来上がっていた。
パックをビニールで包み、持ち手部分をくるくると巻き付けたものを、ふわりと渡してくれる。
お礼を言って車に戻り、ドライブを続けた。
目的地に着いたらすぐに食べるつもりだったが、あれこれ用事があり、結局それなりの時間がたったあとに、鶏五目ご飯のおにぎりを取り出し、牛串のパックを開けた。
移動しているうちに、油がこぼれているだろうな、と思っていた。
こぼれていなかった。それどころか、驚いたことに、パックの中にも油がしたたったりしていない。そこにあるのは、しゅっとした立ち姿の牛串だけだ。
紙のおしぼりが添えてあるのにも感心した。今までSAで牛串を買って、おしぼりが付いていたことはなかった。
さっそく串を手に取って、むしゃり、と牛肉をほおばった。
うまい。
塩胡椒はきつくはなく、それでいてしっかり味がある。
格別にやわらかな肉だとか、ジューシーな肉だというわけではないが、一口目ですでにうまい、かみしめるほどにますますうまい。
おにぎりを箸で崩して食べながら、その合間に牛串を食べ、時々お茶を飲んだ。
最後までうまかった。
特別な素材でも、特別な料理でもない。
まっとうな牛肉を、まっとうに焼いてあるだけだ。
それがこんなにうまい。
思わぬ豪華な昼食となった。
用事を済ませて帰途につき、上り線で吉備SAに入った。
そこにも牛串は売っていたが、下り線とは品ぞろえもちがうし、値段もちがう。というか、ここの牛串は、たしか以前に食べたことがある。買わなかった。
次回、同じコースを通るときが楽しみである。
今回は鶏五目ご飯のおにぎりとのコラボとなったが、牛串と合わせるなら、白飯のおにぎりのほうがいいかもしれない。というか、この牛串なら、ソロでいい。
ちなみに、鶏五目ご飯のおにぎりを買った店では、その隣に、牛ひつまぶし弁当を売っていた。
はじめそれを手に取ってレジに進んだら、こう言われた。
「レンジで加熱しないと召し上がっていただけませんが、よろしいでしょうか」
「え? このままでは食べられないんですか?」
「はい。加熱が必要です」
「すいませんが、それなら結構です」
それで鶏五目ご飯のおにぎりを買うことになった次第である。
どうでもいいことだが、サンドイッチや、おにぎりや、焼き鯖ずしと並んで、加熱しないと食べられない弁当を売っているのは、いかがなものかと、ちょっと思った。
(令和5年6月12日執筆)




