若狭のフグ(5)
私たちはレインボーライン山頂公園をなめていた。あまくみていた。
観光地にありがちな、公園とは名ばかりの、小さな休憩所だと思い込んでいた。
そうではなかった。とても立派な施設だった。
美しく整備された広い駐車場の奥にリフトとケーブルカーの発着場があり、そこから一人700円を払うと展望台に行ける。発着場の左側には真新しいレストハウスがあり、ちらと看板をみると、こんなメニューが載っていた。
鴨のロースト 2,000円
これだけみても、気合いの入り方がわかろうというものだ。
上りはリフトに乗った。後ろに若狭湾の全貌が広がるのを振り返りながら、寒風に吹かれた。もちろん重装備であるので、寒くはない。
山頂公園について、あぜんとした。
新しく立派な施設がいくつもある。そして広い。
恋人同士の撮影スポットがあるかと思えば、両側から拝める神社があり、団子入りのきのこ汁を食べさせる店があるかと思えば、おしゃれなコーヒーハウスがある。お手洗いに入ってみれば、とても清潔でしゃれた作りになっており、便座は温かく、ウォシュレットも装備されている。
そのほかいろいろ気の利いた施設があり、ぐるりと回れば日本海が、若狭湾が、三方五湖をみわたすことができる。
私が気に入ったのは、足湯である。
一段高くなった場所に、木の香りのする重厚な建物があり、ここに入れば暖房が効いていて、しかも四方は総ガラス張りなので、ぬくぬくと若狭の景色を楽しむことができるのだが、そこから一歩踏み出すと、張り出したテラスに足湯がある。
しかも靴下やストッキングのまま足湯につかれるビニールや、濡れた足を拭くタオルが、いずれも百円で販売されている。係員はおらず、箱に自分で百円を入れるのだ。
足湯ファンである私がこれをみのがすわけにはいかない。
タオルを買って、いそいそと靴と靴下を脱ぎ、ズボンをまくり上げて足湯につかった。
最初は熱かったが、すぐに慣れて快適な温度に感じた。
そしてそこからの眺めこそ、この旅で最も私の記憶に残るものとなった。
右に目をやれば、三方五湖がみえる。
唯一の淡水湖である三方湖。
奥まった位置にみえる、やや小さめの菅湖。
もとは淡水だったが、水運工事のため菅湖とつながり、今は汽水湖である水月湖。
海水浴場もある久々子湖。
海水そのものである日向湖。
これらが複雑に入り組んでいるさまは、山々が湖を抱いているようでもあり、巨大な湖に山々が浮かんでいるようでもある。
左に目をやれば、若狭湾がみえる。
みくらべてみると、若狭湾は動的であり、三方五湖は眠っているように静的だ。
美浜町や若狭町も一目にみてとれる。
その風景の玄妙さと、海と湖がつながりあう自然の造形の妙は、ただただ美しい。
けれども私が最も美しいと思ったのは、実は山でも海でも湖でもない。
光である。
エル・グレコの絵のように昏く神秘的な色合いをみせる山々の向こう、重く垂れ込める雲の切れ間から、差し込んでくる日の光。
山々の稜線を映し出し、人の住む世界を照らす、その光。
その美しさに言葉を失った。
考えてみれば、あの光がなければ、山も海も湖も人々の姿もみることはできない。
ありあまるほど太陽光に恵まれた土地ではないからこそ、日の光の偉大さが実感できる場所。
それが若狭なのだ。




