若狭のフグ(2)
くつろいだ格好になって食事の部屋に入った私たちは、歓声を発した。
テーブルの上には、二皿の大皿に美しく盛られたふぐの薄造りと、大きな舟盛りが鎮座していた。
舟盛りには立派な活け作りが盛り付けられている。
「寒ブリだ!」
私は思わず声を上げてしまった。実は道中、せっかく日本海に行くのだから、フグだけでなく、寒ブリや蟹もたべたいという話を、車のなかでしていたのだ。
だが実はそれはブリではなかった。ヒラマサだったのだ。
情けないことに、私にはブリとヒラマサの区別がつかない。二つを並べてくれればわかるかもしれないが、ヒラマサだけを出されて、「これはブリです」と言われれば、素直に信じてしまう。その程度の眼力しかないのである。
ヒラマサだけではない、その横には巨大なヒラメが驚くほど厚切りで活け作りになっており、さらに海老も付いている。
ふと横に目をやる。固形燃料を仕込んだ一人用の鍋が置いてある。その蓋を開ければ、そこには蟹が。蟹のほうろく焼きだ。
薬味の紅葉おろしとアサツキも山ほど盛り上げてある。
フグの歯ごたえが素晴らしい。三枚一度に食べるという荒技も駆使した。うまい。そして、食べても食べてもなくならない。
ヒラマサの刺身は新鮮そのもので、きりりと美しい。箸でつまんだとき、しんなりと曲がるようなヤワな刺身ではない。ぷりりと背筋を伸ばしたまま、食べられる瞬間を待っているのだ。
ああ!
その歯ごたえたるや!
ここまで臭みのない魚というのも、なかなか食べられるものではない。
フグとヒラマサの味に舌がすっかり慣れたころ、ヒラメの刺身に箸をつけた。案の定、私の舌は、ひどく驚いていた。
言い忘れたが、全員の席に、フグのヒレ酒が用意されていて、これで乾杯した。私ともう一人は、つぎ酒の熱燗を注文し続けた。ビール党の友人は瓶ビールを注文した。ハイボールを注文した人もいる。われわれは思い思いに若狭の冬の味覚を堪能したのである。
だが驚きは終わらなかった。
(2019年12月15日執筆)




