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食エッセイ  作者: 支援BIS
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中華そば「無限」


 JR東西線海老江駅のほど近くに、無限という名の中華そば屋がある。

 忘れたころに食べたくなる味で、この三年間で四回ぐらい行ったと思う。

 一見何の変哲もない中華そばが看板メニューなのだが、時々無性にその中華そばを食べたくなる。

 11月23日の昼に食べた。

 この中華そばの何にそんなに引きつけられるのだろうと考えてみる。

 麺は透明感のある中細麺で、ほどよいかみ応えがあるが、格別変わった味ではない。むしろ無表情な麺だ。

 チャーシューが乗っている。おいしいことはおいしいが、これも格別の個性はない。

 煮卵を半分に切ったものも、シナチクも、ちゃんとしたものだけれど、特筆するような際だった特徴はない。

 そう考えていくと、このラーメンの個性は、やはりスープにある。

 あっさりした醤油味のスープだ。

 だが、こくがある。

 複雑な味わいがあり、がつんとした手応えがある。

 何ともいわく言い難い味なのだが、どこかでこれに似たものを食したような気もする。

 考えてみて気がついた。

 これは、あれだ。

 学生時代にアルバイトしていた高級ホテルのコンソメスープの味と、どこか似ている。

 あのコンソメは、はじめはあっさりしているかのように感じるが、実は濃厚なうまみが凝縮されている。その証拠には、手につくと、ひどくべたべたした。

 無限の中華そばのスープは、あのコンソメを思わせる。

 ただのコンソメではない、コンソメ・ドゥオーブルだ。ダブルコンソメだ。

 無限は、スープを味わいに行く店だったのだ。

 ふつう中華そばは、スープとともに麺を食べる。つまり麺が主食だ。

 だが、無限の中華そばはちがう。

 スープを味わうための副食として麺が入っているのだ。

 いや、もっといえば、コンソメにごく少量の野菜が入っていたり、肉やソーセージや、あるいはタピオカが入っていたりするのは、スープの味をより楽しむための具材のようなものである場合が多いが、もしかすると、無限のラーメンの麺も、具というか浮き実のような存在といったほうが当たっているのかもしれない。

 そう考えてみると、麺やチャーシューや煮卵やシナチクの味がとがっていないのも、スープの邪魔をしないためなのだと気がつく。

 このことに気づいたことによって、味わい方が変わるだろうか。

 変わるような気がする。

 例えば、炒め野菜がたっぷり載っていることが売りのラーメンがあったとする。

 それを食べるのに、麺に野菜が混じっているという意識であるのと、野菜に麺が混じっているという意識であるのと、べつに差はないように思う。食べてみて、分量の割合まで含めてそのラーメンの味わいだと感じるだけのことだ。そしてもしもそのラーメンが、麺の量も野菜の量も異様に少なかったら、客は文句を言うだろう。ふざけるなと。

 だが、スープだとわかっている料理を出されて、具が少ないからと文句を言う人はいない。

 つまりそこには、料理のカテゴリーがちがうという了解がある。

 今度行ったときには、しっかりとスープに意識を向けて食してみなければならない。

 きっと、今までとちがう味わいを楽しむことができるだろう。


 ちなみに、「ぐるなび」で無限の中華そばを調べると、こんな説明があった。


無添加・無化調にこだわり、何度も何度も改良を加えた和風醤油らーめん。魚介スープ(アゴ、鰹、昆布、煮干、スルメ、あさり、かき、海老、椎茸、貝柱など)、鶏スープ(丸鶏、名古屋コーチン、手羽先、果物、野菜など)の魚介と鶏のダブルスープに4種類の醤油と3種類の塩をブレンドした醤油だれで仕上げたやさしい味です。(「ぐるなび」より)

 

(2019年11月30日執筆)

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― 新着の感想 ―
[良い点] コンソメスープの濃度の証左としてベトベトするというのは、眼から鱗で。 なるほど、どこかで試してみたくも、粗相が過ぎるかも。 食べる側でなく、出す側だから故の体験ですね
[一言] ヨーロッパではラーメン=スープ料理らしいですね。 おまけにイタリアではパスタすらスープ扱いだとか。 それ「カレーは飲物」と言い張るぽっちゃり論理と同じ? あたしゃカレーライスもスパゲッティ…
[一言] あっさりしてるのにこくがある醤油ラーメン、一番好きなやつです!
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