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空気(2015年4月12日)
一昨日のことである。
朝から左胸の奧の下のほうに、痛みを感じていた。
空気を吸うと、突き刺さるように痛い。
体をいろいろ動かしたりしてみたが、その痛みはなくならない。
そのうち、忙しさに取り紛れて、その痛みのことは忘れた。
忘れられる程度の痛みではあったのだ。
夕方、コンビニに買い物に行った帰りのこと。
右手に傘を持ち、左手には買い物の袋を持っている。
ふと、息を吸い込んでみると、朝感じていた痛みがない。
思いきって、胸深く空気を吸い込む。
痛くない。
と同時に、何ともいえない充足感を味わった。
そして、
「うまい」
と、しみじみ感じた。
空気がこんなにおいしいものだとは知らなかった。
実にうまい。
空気には、ほかのものにないうまさがある。
舌に感じる味覚ではないのだから、鼻孔に感じる香りなのだろうか。
何の香りだと言い当てられるようなものではない。
雑多なものが混ざり合った、しいていえば都市の生活の匂いとでもいうものだ。
私の身体は、その都市の生活の匂いを、好ましいものだと感じた。
(2015年4月12日執筆)




