桜(2015年4月4日)
たった今、帰宅した。
どこに行っていたかというと、桜で有名なK神社である。
わが家から歩いて10分の場所にある。
雨のはずが、さらりと晴れた空模様に誘われて、一時間の休憩を楽しんだのだ。
本社と摂社、末社を参拝して向こう側に降りると、屋台が軒を連ねている。
しばらく歩いたあと、中央の一番良い場所に設けられた縁台に落ち着いた。
まずはビールと豚串で飢えを満たす。
それからおでん三種盛り、つまり大根と牛すじとゴボウ巻きをつまみに、ワンカップの熱燗を楽しんだ。
この酒が、驚くべきことに、実によい燗調子なのだ。
ひどく儲けものをした気分になった。
桜は神社の高い場所や、外側の桜はかなり吹き散らされて葉桜になりかかっている。
しかし、中央のくぼんだ場所では、雨に散らされながらも七分か、ひょっとすると八分の花を保っていて、まさに今が見頃というべきである。
明るい日の光に輝く桜もよいが、こうして夕闇が落ちかかる少し前の、やわらかで控えめな光に浮かぶ桜もよい。
見るともなしに、左前方のヨーヨー屋を見ていた。
屋台の裸電球に照らされて、黄色やオレンジや緑の小さなゴムの風船が、宝石のように輝きを放っている。
五、六歳ぐらいの着物を着た女の子がやってきて足を止め、じっとヨーヨーに見入っている。
その女の子の頭上に、二枚の桜の花びらが、ひらひらと揺れながら落ちてきた。
口の中の酒が突然芳潤さを増した。
(2015年4月4日執筆)




