コロッケ蕎麦(2014年1月31日)
柳家喬太郎師匠の「時蕎麦」では、マクラにコロッケ蕎麦の話題が出る。
どんなにおいしく食べてもらえるかとわくわくしながら待っているコロッケたちにとり、蕎麦の上に乗っけられるというのは想定外の情けない事態であるらしい。
「ええぇっ? そばっっ?」
と驚きながら蕎麦に乗せられてしまったコロッケの形態模写には、思わず笑いがこぼれる。
喬太郎師匠によれば、コロッケ蕎麦などというものは、よい素材を使って作る上品な食べ物などでは決してない。そばつゆも、だしの味もしないような塩辛くて黒い液体だし、コロッケも得体の知れない白い物体をいかにもコロッケでございと衣を付けて揚げた代物に過ぎない。
けれどこれは、コロッケ蕎麦をけなしているわけではない。
グルメではあり得ないコロッケ蕎麦への限りない親しみがあふれた表現なのだと、私は思う。
大学時代、学校に向かう途中のあわただしい朝の時間、新宿駅の地下で乗り継ぎするとき食べた蕎麦の味を思い出す。
あの真っ黒いつゆが懐かしい。
当時の私にとり、コロッケを乗せるというのは、なかなかの贅沢であり、コロッケ蕎麦のボタンを押すときには、少々鼻息が荒くなったものだ。
柔らかくなったコロッケが少し溶け込んだだしには、格別の風味があった。
蕎麦にコロッケを乗せるというのは、柿の種にピーナツを混ぜるのに匹敵するぐらいたいした発明だと思うのだが、どうだろう。
(2014年1月31日執筆)




