シャーベットの驚き(2013年6月29日)
1533年、メディチ家のカテリーナがオルレアン公アンリのもとに嫁いだ。
アンリは後のフランス王アンリ2世である。
このときカテリーナが連れて行った料理人たちがフランスで食文化の花を咲かせた。
今日のフランス料理の淵源といってよいだろう。
その料理人たちの中に、シチリア人の氷菓職人がいた。
フランス貴族たちは、アンリ2世の結婚式で、初めてシャーベットに出合ったのである。
それはどれほどの驚きだったろう。
それはどれほどの喜びだったろう。
文化後進地域であったフランスでは、まったく想像もできなかった食の芸術。
新たな世界が眼前に開かれるような出来事だったのではあるまいか。
「辺境の老騎士」第4章第1話でバルドが氷菓を食べるシーンは、この歴史上の出来事から着想を得た。
氷菓などというものの存在を予想もしなかった人が初めてそれを食したなら、それはどんな体験となるだろうか。
初めて、ということはただの一度しか訪れない。
その人にとって唯一無二の出来事ということである。
唯一無二の出来事に出合い続けて人生はある。
ただ一度の出来事をどれほど驚き楽しみ味わえるか。
そんなことを思いながら老騎士の旅を書きつづっている。
(2013年6月29日執筆)




