桃屋のきざみしょうが(2012年7月24日)
ショウガは、焼き物に、煮物に、炒め物に、スープに、またそのままで薬味にと、実に幅広く使える食材である。
中華料理屋の厨房に行けば、刻んだネギ、刻んだショウガ、刻んだニンニクが、山ほど用意されている。中華鍋に油を入れ熱が通ったところでネギとショウガを入れれば、油に香ばしい香りが移り、もうそれだけでどんな炒め物のベースにも好適な香油が誕生する。
私も家族と離れて一人で生活していたときは、ショウガを切らさないようにしていた。冷蔵庫にはあまり入れなかった。新聞紙に包んで置いていた。必要なときに必要な分量を切り取り、皮や乾いた部分を削り落として、包丁の横でばしんとたたきつぶす。うまくほぐれていない部分はとんとんと刻んで、そのまま中華鍋に放り込んだ。あのころは、中華鍋一つでどんな料理も作ったものだった。
さて、ショウガの中で最もよく使うのは、刻みショウガではないだろうか。
煮物にはざっくり切っただけのショウガを入れたりするし、薬味として細切りのショウガを乗せたりするが、用途の多さでは、やはり刻みショウガだろう。おろしショウガのほうが需要が高い、とおっしゃるかたもおられるかもしれないが、実のところ、ごく細かく刻んだ刻みショウガは、おろしショウガの用途を包含しているといってよい。
世の中のにはチューブに入ったおろしショウガというものがあって、これは大変便利なものだ。風味の鮮烈さではさすがに生をおろしたものに及ばないが、ちょっと使いたいとき、ああいうチューブ入り薬味というのは、とても助かる。包丁やおろし金など触りたくもないという諸兄にとってはなおさらだろう。実際、生のショウガをおろしても、一晩たてば色も変わり香りも落ちてしまう。冷凍にしておけば、炒め物には使えるが、豆腐の上に乗せるなら、むしろチューブ入りのほうがましだったりする。
前置きが長くなったが、しばらく前からわが家では、桃屋の「きざみしょうが」を常備している。これ、なかなかの優れ物である。
お疑いのかたは、そうめんのおつゆに入れてみていただきたい。
いかがであろう。驚かれたのではなかろうか。何でこんなにうまいの、と。
豆腐の上に乗せても同様なのである。
一晩たとうが二晩たとうが、色も、味の濃さも、風味も落ちない。瓶詰めなのだから当たり前と言ってはいけない。よく考えたら、これはとても不思議なことなのだ。たぶん、その秘密は、刻みショウガを覆っている油っぽい物にある。と思って桃屋のウェブ・ページをのぞいてみたら、なたね油で包んであるらしい。
桃屋。
昔からなじみのあるブランドだが、この「きざみしょうが」といい、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」といい、新しい驚きを提供し続けてくれる、生きのいい会社である。
(2012年7月24日執筆)




