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同じクセ

作者: 春羅


 宇都宮でのこの戦、必ず勝つ。


 僕・新撰組副長付き小姓市村鉄之助の初陣なのだから。


 長旅だったけれど、疲れたなんて言っていられないし、不思議とそうは感じなかったんだ。


 銀ちゃん……先輩小姓の田村銀之助くんはというと、伝習隊隊長の率いる後軍に配属されていた。


 僕が新撰組に入隊を許されてから、初めて離れ離れになった。


 小姓の仕事を一人でするのも初めてだから緊張するし、粗相なくできるか心配だったけれど、土方先生の前軍との別れ際までずっと


「先生の隊に入りたい」


と残念がって、僕を羨ましがっていた彼を思うと、銀ちゃんの分もしっかりしなきゃと身が引き締まった。


 そして、土方先生。


 近藤局長が薩長軍に行ってしまってから、ずっと元気がない。


 以前の僕は、先生の側に居ると口も満足に利けない程に萎縮していた。


 今みたいに先生を大好きと思えるようになったのは、先生に稽古の注意をしてもらって、笑って声を掛けてくれてから。


 局長がいなくなってしまった後のことだった。


 だから局長がいた頃の先生をよく知っているわけではないし、今でも先生をわかってるなんてとても言えないけれど、なんだかやっぱり、全然違う気がする。


 局長が馬上、隊を去ってしまう時だって、いつまでもその後ろ姿を見詰めていた。


 背中から


「代わりに行ければいいのに」


という気持ちが聞こえてきそうだった。


 だから絶対に、負けられない。


 何回勝てば、新撰組は悪くないって認められるのかな。


 だから戦に勝って、早く局長に帰って来てほしい。



「え……? どうしてですか?」


「わざわざ理由言わなきゃわかんねぇのかよ」


 わかりませんよ。


 どうして、急に僕を置いて行こうとするんですか?


 宇都宮城に向かう旅路の最後の宿で、先生は僕に告げた。


 宇都宮の戦には出るなと。


「イ、イヤです! やっとここまで来たんです! 僕も皆さんと一緒に……副長と一緒に戦いたいんです!」


 ムキになって首を振った。


「厭だと? 俺の命令に背くってのか」


 怖い……。


 睨まれて僕が黙ると、もっと冷たく視線を逸らして続けた。


「理由はな。真剣と銃・大砲のオトナの戦に、お前じゃ役に立たねぇからだ。小姓は黙って茶ぁ出してろ」


 小姓って……何の為にいるんですか?


 僕と銀ちゃんは、先生の一番近くにお仕えして、いざという時には盾にもなると心に決めているのに。

僕の問いは声に出せなくても、先生は答える。


「小姓ってのはな、“見習い隊士”の役回りなんだよ。半人前に出て来られても迷惑だ。足を引っ張んな」


 なんでそんな急に、突き放すんですか。


「そ、それじゃあ僕、ここにいる意味がありません」


 兄さんを捨てて捨てられて、ここに残った意味がない。


 先生の近くにいられる、意味が全くない。


 やっと口を開いた僕を先生はまた、睨んだ。


「お前、その吃音症、治んねぇのか」


 き、きつおん……?


「いちいち吃る話し方だ」


 そうだ、兄さんにも言われたことがある。


 なかなか治らないなぁ、小さい子どもみたいだなぁって。


「ええと、クセなんです。ごめんなさい……」


 あ、すぐに謝るのもやめろと、先生に言われていたんだった。


 吃音か謝る癖か、どちらかなのかどちらともなのか、原因ははっきり見えないけれど、先生はとても辛そうな表情に変わる。


 見ていると、僕は自分が怒られている方がまだいいと思って話をぶり返す。


「先生は周りに誤解されようとすることが多いから、僕、小姓の仕事は先生の本当の心を感じて動くことだと思っています。先生は局長をお助けしたい。だから戦にも絶対勝ちたい。それがわかるから、僕は一発の弾丸から先生をお守りする為だけにでも戦に出たいです」


 吃音せずに打ち明けたのに先生はスッと立ち上がって、もう話はお仕舞いだと部屋の襖を開けた。


「お前みてぇなちっこいのに守られなくても、俺には元々薩長の鈍いタマなんか当たんねぇんだよ」


 廊下では、島田さんと中島さんが挨拶をしている声がした。


「ヒドイ! 僕は真面目なのに! コドモ扱いで遊びみたいにおっしゃるなんてヒドイです!」


 どうせ無視されると知っているのに堪らず駄々を捏ねるみたいになってしまうと、こちらがビックリするくらい意外に先生は立ち止まった。


 結構騒がしめだった島田さんと中島さんも一瞬だけシンとなった。


「ぅわあ副長、マジっすか」


「コマシっぷり健在ですか」


「こんな幼気な少年にまでその毒牙をっ」


「さすが、生涯現役ですね」


 お二人交互に、ちょっと意味のわからないことを言う間、段々ものすごい形相で僕を振り返る先生に怯えてそれどころじゃなかった。


「鉄~! 人聞き悪いこと言うんじゃねぇ! つかどこで覚えてくるそんな台詞!」


 え? え?


「いやん副長マジメに答えてあげてっ!」


「イケズ! 漢力絶倫!」


 え? え?


 状況が全然わからない僕だったけれど、お二人のおかげで、わなわな震えながらも先生は言ってくれた。


「~わかったよ、付いて来い。その代わり、危ねぇ時はすぐ引っ込ませるからな」


 なんだ、やっぱり、僕を心配してくれていたんだ。


 先生が冷たいことを言うのは、いつもそういう時だ。


 これから先、またどんな冷たい言葉で僕を追い出そうとしても、お見通しなんですから。







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