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なぜ、『B級グルメ』なのか?

 『異世界料理モノ』を最初に目にした時、その読後の反応は様々な風に分かれると思います。

 わたしの場合は、この『小説家になろう』の存在を最初に知った時、何気なくランキングのタイトルにあった『異世界食堂』を読んで衝撃を受けたことに始まりました。


『何だろう、これ……? へえ、面白い! こういう作品もアリなんだ!?』


 当時は『異世界食堂』さんも定期連載中で、きちんと毎週土曜日に合わせて、物語が更新されていくという、ある意味、リアルタイムとリンクしたかのような取り組みもされておりましたので、なおさら面白いと感じておりました。

 今でこそ、アニメ化もされて、すっかり周知された作品ですが、そういった細やかな工夫も含めて、『小説家になろう』における、『異世界料理モノ』の金字塔とも言える作品ではないでしょうか。


 さて、この『異世界食堂』さんを例にあげますが、この作品に登場する料理のそのほとんどがある意味で王道とも言えるメニューばかりになっています。

 それもそのはず、異世界と魔法の扉でつながってしまったお店は『ねこや』という洋食店です。そのお店を舞台にしているため、メインは大衆食堂的なものになるのは当然ですね。

 そのお店の料理を食べにやってくる異世界の住人たち目線での物語。

 『こちら(我々)』の世界にとっては当たり前のメニューが、異世界の住人にとっては滅多に食べることができない特別な料理になる、ということで、彼らの食べた時の衝撃やリアクションがより一層、読む人に美味しそうさを伝える結果になったのだと思います。


 では、ここで、最初の設問に戻ります。

 『なぜ、B級グルメなのでしょうか?』


 もちろん、『B級グルメ』は少し失礼かも知れませんね。

 『ねこや』に登場するメニューの中には、実はかなり手の込んだ工程が必要な料理もあり、そういう意味では『B級』という表現はふさわしくないかもしれませんが、ここではあえて『B級』という言葉で呼ばせて頂きます。

 ここで、大事なことは、この『B級グルメ』の多くが、今の現代日本で生活していれば、ほぼ間違いなく口にするであろう料理である、ということです。


 『メンチカツ』、『テリヤキチキン』、『エビフライ』、『ステーキ』、『ビーフシチュー』『ミートソーススパゲティ』『オムライス』……などなど。


 ね? 皆さんも食べたことがありますよね?


 ――――ということは。


 これがどういう料理で、どういう味なのかが、一瞬で脳裏に想像できる、ということです。


 つまり、『味の共有』です。


 実は、小説媒体における、料理描写のおいしそうさに関しては、この要素がかなりのウェイトを占めているのです。

 もちろん、今までに皆さんがそれぞれ召し上がってきた経験は異なりますし、同じメニューを目にしても、想像する味については大分個人差があると思いますが、ここで大切なのは『B級グルメ』は、誰もが『自分がかつて食べておいしかった味』を想像できる強みがあるということなのです。


 世の中にはもっともっと手が込んでいて美味しい料理もあるでしょう。

 最新の技術を用いた、驚くべき発展を遂げた調理があるでしょう。


 ですが。


『何で、異世界の連中は、こっち(現実)ではありふれた料理程度をありがたがるんだよ? おかしいんじゃないか?』

『料理人でもない素人が転移して、たまたま作った料理がそこまでうけるなんて不自然だろうが』

『異世界の料理人だって、もっと創意工夫をするもんじゃねえ? 普通はさ』


 このような疑問や意見に対して、明確な答えがひとつあります。


 『異世界料理モノ』の飯テロ描写は、物語の中の異世界の住人に対してではなく、読者であるわたしたちに対して、そちらをターゲットとしたためにそういうメニューが選ばれたのだ、と。


 身も蓋もない話ですが。


 以下のようなご意見があります。


『せっかく異世界を描くのに、出てくる食材がこっちの世界にあるものばかりなのはおかしいのではないか?』

『何で、異世界の食材って、じゃがいもとかトマトとかばっかりなんだ? どうせなら、異世界ならではの食材を使って、異世界でしか作れない料理で無双してみてくれよ』


 はい、正論です。

 ですが、これらの意見に応じるには大きな壁がありまして。

 完全に異世界独自の食材を一から構築して、それを使って美味しい料理を考えてみた場合、まず、それ自体が結構大変な作業なのですが、そこはクリアしたとしましょう。


 さて、この後です。


 まったく耳になじみのない名前の野菜を使って、それがどういう味かを説明して、かつ読んでいる相手に美味しそうだと伝える――――。

 さすがにこれはハードルが高すぎるとは思いませんか?

 一般的にはあまり食べる機会が少ない料理でも、現実に存在して、作者がそれを食した経験があれば、そのことを元に表現を広げることはできるでしょう。池波正太郎先生の食エッセイなど、まだ食べたことがないものでも、本当にそのおいしそうさが伝わってきますし。


 ですが、そもそも、異世界の料理は現実には存在しないのです。

 似たものがある、ということで『これは何々の味に似ている』などとイメージを寄せることはできますが……それでしたら、ねえ?


 二階から目薬をさすような行為に四苦八苦した挙句、味が伝わらないということであれば、無理をせず、こちらの世界の食材に寄せるのは致し方ないことだと思いますよ?


 もちろん、『俺は完全に異世界の食文化を描き切る!』という熱意をもった作者さんでしたら、しっかり応援します。

 むしろ、ぜひ読んでみたいです。


 ただ、『なぜ、『B級グルメ』なのか?』の問いの答えに関してはおわかりいただけたのではないでしょうか。

 純粋に難易度が高すぎるのですよね。


 これは、現実にある最新調理と飯テロとの相性の悪さにも通じるのですが……。

 それについては、また次回に語っていきたいと思います。

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