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私、○○辞めますっ!  作者: 椎名圭
明るい独身生活
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#02

 お父さんとお母さんが離婚して、ちょうど一カ月がたった。


「お、お母さん?!」掃除の最中に電話があり、「今から行くから」と短く言われ、慌てて掃除を終わらせ、お茶の用意をしていると、チャイムが鳴り出て見れば…


「……。」


 離婚直後の母ではなく、今こうして私の目の前に現れているのは、長かった黒髪を明るめの茶に染め、淡い紫のワンピースを着ていた母だった。


「やーねっ! なに、ジロジロ見てるのよ。上がるわよ?」と玄関に小型のスーツケースを置き、中に入って行った。


「もうっ! 何度か連絡したのよ?」母の背中に言葉を投げ打ち、スーツケースをリビングの中に入れていく。


(こんなスーツケースあったかしら?)


 そのスーツケースも、母の趣味からしては些か派手な色合いだった。


「あー、暑かった。ね、猛くん元気?」と、ニコニコと嬉しそうに私をみて母は言った。


「元気よ。うるさくて困るわ。お茶でいい?」


「おねがーい。」


 母は、ソファーに足を投げ出し、寛いでいた。初めてみる母の行動。


(この変わりようは、いったい。それに、今までどこに?)


 冷蔵庫から冷えた麦茶を出しながら、昨日主人が出張で買ってきた安倍川餅を出す。


「はい、これお土産」と小さな鞄から菓子包みをテーブルに置いた。


「草津に行ってきたの?」


「ええ。温泉に毎日入り浸って、何も考えずのんびり過ごしてきたわ。二週間」


 見れば、あれだけガサガサしていた母の肌も幾分艶やかになって、気持ち太ってきたような?


「もう、携帯だって持っているんだから、連絡位してよ…」あまりにも連絡がないから、夫に相談したものの、「離婚した直後なんだし、少しそっとしとけば?」なんて、言いだすし、猛は猛で、「これで、来年のお正月はお年玉が二・五倍になった」と勝手に喜んでる始末。


「それにしても、二週間もだなんて。それよりも、いまどこに住んでるのよ」


 安倍川餅の黄な粉が散らないように食べながら、母の顔を何気にみる。


(お母さん、随分と若返ったのね…)


「んぅ、ちゃんとした所に住んでるから。それに、少しだけどね、私アルバイトしてるのよ」


 意外だった。私の記憶では、母さんが仕事をしていたというのはなかったから…


「なんか、母さん変わったわね。前よりも若くて、綺麗になった」


 以前読んだ雑誌に、熟年離婚した女性は今まで抑えていたものが一気に溢れてくるとあった。


(お洒落や旅行も、仕事も我慢していたのかも知れない)


「いった?」


「え? いったって?」私の問いに、母はのんびりと麦茶を飲むだけで、答えない…


「汚くなってたわよ…」なんとなく、母さんの言葉が父さんのことだと思ったから、そう答えた。


「そう…」とだけ返し、また、麦茶を飲む。


「じゃ、帰るわね」


「うん」


 玄関まで見送り、空になったグラスを片付けようとテーブルに目をやる。


「…素直じゃないんだから。お父さんも、お母さんも」


 母が、置いていった温泉まんじゅうの間に鎌倉市では有名な市屋のかまぼこが挟まっていた。


「しょうがない。明日、行く事になっているんだし、届けて猛の靴でも買わせてもらおうかな?」


 その日の内に、お父さんに連絡をし、「明日行くから」と告げると、電話の背後で賑やかな声が聞こえていた。


(誰か遊びにでも来てるのかな? 辰則さん、と女性の声もしたから)


 でも…


「ほんと、素直じゃないんだから!」


 私が電話をかけた時、電話口に出たお父さんの開港一番が、「香織か?」だったし、私だとすると、落胆した声になったから。


 お互い気にしてるのは、よくわかるんだけど…


「ふぅん。まぁ、お互い嫌いになって離婚したんじゃないから…」。なんとかなるんじゃないかな? わからんけど


 帰宅早々、携帯で誰かと笑いながら話していた夫の和樹に、それとなく二人の事を離してみた。


「な、たまには、みんなでバーベキューとかしない?」の、夫の誘いに私が断る理由は、一つもなく、その晩私はベッドの中で、夫と綿密な話し合いをした。


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