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残念英雄のサエナイ様!〜ゲームの世界ならチートで無双できると思った?〜  作者: 瀬野 或
一章 傾きだす天秤〝主島リストルジア、判決編〟
19/21

#19 彼女の過去と、俺の決意。


 リンゴルドの街にある闇の住人が集まる一件の酒場、アルカロ──。昼間はクローズとなっていて、夜にしか開かないこの店は、怪しい情報が多数集まる異質な酒場だ。しかし、集まるのは情報だけではない。この街を拠点にしている情報屋は勿論、咎者と呼ばれる犯罪者やごろつき共等、柄の悪い連中も集まってくる。そんな危険な場所をなぜ検挙しないのかと疑問に思うが、この店は表面上は単なる酒場で、裏酒場の入り口はマスターに合言葉を言わない以上開くことはない。『そんなの、強行突破すればいいだけの話だ』と思うかもしれないが、少し冷静になって考えれば、それが不可能であると気づくだろう。

 先にも述べたが、この店は【闇の住人が集まる場所】なのだ。それを考慮すれば、この店を謙虚できない理由が浮き彫りになってくる。

 【情報】というのは、時として鋼の鎧にもなり、なんでも切り裂く剣にもなる。それを知らずに検挙に踏み込むことこそ愚行であり、大袈裟に言えば国を脅かすほどの事態に発展する可能性もあるのだ。この酒場に出向く者達の背後にどんな組織が組みしているのかわからない以上、兵士は夜な夜なこの店の周囲を警戒しながら警備するしかない。それは、この酒場を警戒しているのもそうだが、間違って入店した一般人に危害が及ばないようにしているためでもある。だが、不思議なことに、この店で不祥事が起きたことがない。

 酒場なら酔っ払った者達が乱闘騒ぎを起こすことも珍しくないのだが、この店に限ってはそういった事件が発生したことがないのだ。リンゴルドで一番危険な酒場が、一番安全というのも皮肉な話である。



 招き猫でシュガーと合流した俺は、食事をしていたレイナードと合流して、俺の部屋で互いに情報を分かち合った。やはり、レイナードも裏酒場が気になったらしく、知人に話を聞いて回り、先の情報を手に入れたようだ。案外、こいつもやる時はやるな──と、俺はレイナードの印象を少し変えた。


「それで、本当に行くのか?」


 レイナードはいつになく真剣な表情で俺に訊ねた。どうやらレイナードもラッテの件を気にしているようで、『それで』という言葉には『ラッテを放置していいのか』という言葉も混じっているように聞こえる。


「儂は兄様の意見を尊重するぞ」


 招き猫の前で、シュガーとは一連の流れを終えている。なので、腑には落ちないが、理解だけはしてくれているのだろう。今はそれだけでも充分有り難い。


「情報が手に入るのなら……行くしかないだろう」


 そうは言ったが、欲しい情報が必ず手に入るわけでもない。あくまでも『可能性がある』というだけで、根拠はないのだ。それでも俺は、アルカロに行くしかないと進言した。


『あまり無茶はして欲しくないです……っ』


 この声は他のふたりには届いていない。

 俺の部屋の隅でひっそりと影を作るトラップボックス──フィレの言葉だ。

 俺はフィレのほうを向いて、これが返事だと左手を軽く上げた。


「ん? なにかあったか? ……って、まあ、ここにはトラップボックスがあるんだったな。恐怖の対象を何度も見てりゃ、警戒心も薄まるってか?」

「お主は気づいておらんようじゃが、この部屋には儂が防御魔法を張っておる。この魔法を解けば、お主も昨日のダリルのようになるぞ?」

「笑えねぇ冗談はやめろや……」


 昨日、アデントン公との会談で、フィレの無害さを証明しようとした際に、ダリルが誤ってフィレの【魅了】にかかってしまい、一時は失敗になるかと思ったが、アデントン公の理解がよかったのか、それとも未知への探究心が彼の心を動かしたのか、お咎めはなしになり、フィレは無事にこの部屋に戻れた。


「して、フィレはなんと申しているのだ?」

「無理すんなってさ」

「やはり、兄様は種族問わず人気じゃなぁ……」

『あ、あわわ……っ』

「こら、シュガー。語弊があるぞ。俺は別に人気なんかじゃ……」


 そんな会話を何度か交わしていると、レイナードが手を二回ほど叩いて場制した。


「そろそろ茶番はやめて本題に戻るぞ? アルカロにはひとりで行く気か?」

「そのつもりだ」

「儂もいくぞ!! 儂ならいざという時に魔法で兄様を守れる」


 俺は隣に座るシュガーの頭を撫でた。


「ありがとな、でも、お前は留守番だ」

「な、なぜ──」

「俺がなにかやらかした時、この宿屋を守れる存在が必要だ。シュガーならその役目を任せられる。レイナード、シュガーを頼んだ。お前らは元々組んでいたから、俺よりも連携が取れるだろ?」

「俺様に命令か、随分偉くなったもんだ……が、まあ、その役目は任されてやる。おい、シュガー、ガキじゃねぇんだから不貞腐れるな」

「別に不貞腐れてなど……心配なだけじゃ」


 実際、この場にいる誰よりも若い俺は、頼りにされるよりも『心配される』のが当然だ。この世界では『成人』扱いだけど、日本ではまだ未成年。人生経験だってまだまだ未熟のガキだ。なんの取り柄もなかった俺が、ここまでやってこれたのは運がよかったからであり、俺自身の力じゃない。それなら、俺自身がひととして成長しなきゃ、この先、この世界では生きていけない。背伸びキッズ上等じゃねぇか、ガキの意地ってやつを見せてやる。


「それじゃ、あとは任せたぜ、レオ。店の場所くらいは予め見ておけよ?」

「それくらいわかってるって」


 レイナードは後ろ手に振りながら、俺の部屋を出ていった。

 残っているのはシュガーだけとなったが、シュガーは相変わらずマイペースで俺の部屋のベッドに寝そべっている。俺はそのベッドの隅に座って、パタパタと両足を振っているシュガーを見つめていた。


「兄様、どうかしたか?」

「お前って本当にフリーダムだな」

「半魔族に自由を掲げるとは、兄様も罪な男じゃなぁ……」

「そういう意味で言ったわけじゃねぇけど、不快にさせたなら謝るよ」

「そんな暗い顔するな、冗談じゃよ」


 俺が『知っている限りのイスタの世界』では、半魔族(ハーフド)という存在は禁忌であり、忌み嫌われる存在だった。表立って登場するのもシュガーだけだったし、シュガーの過去は知っているけど、『この世界において』のシュガーがどういう人生を送ってきたのかまでは知らない。ただ、レイナード、ミゲイルさんと組んでいた辺りから察すれば、楽しい人生を送っていたとは言い難いだろう。だから俺はシュガーを引き取って、妹として精一杯楽しい人生を送らせてやるつもり……だった。



 しかし、現実はどうだ──?



 魔界への入り口を探るなんて、俺達人間には雲を掴むほど難しいことをやろうとしているし、それに巻き込んでしまっている。だが、シュガーは魔法帝という上級職についていて、【圧倒的な力】を所有しているので、つい戦力として換算してしまうのだ。まあ、それについてはシュガー本人も文句なしでついてきてくれるので有り難い限りではある。しかし、兄になる──と豪語した俺が、再三問いかけてくるのだ……



 兄として、それは間違っているのではないのか──?



 ……と。



 ああ、もう……こうやって考えてもどうにかなる問題でもないだろッ!! また悪い癖が出てしまった。妹であり、魔法帝である──これでいいだろ!? 危なくなったら一目散に助ける、兄としてッ!!


「よし、解決ッ!! よく割り切ったぞ、俺ッ!!」

「なにをさっきからブツブツと呟いておるのじゃ?」


 ……え?


「口に出てた……?」

「妹がどうの、兄としてどうの……とか、ブツブツ言っておったぞ? 兄様、大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ。問題ない……」


 そして、その後、見事に撃墜されるまでが一連の流れまである。


「兄様が儂……私のことが大好きなのはわかったぞ? フフフ……」

「やっちまった……。つい自分の部屋だからって油断していた……」


 失意のどん底で打ち拉がれている時、さらに俺を追撃するかのように、フィレが言い放った。


『私のことも……いつも大切に思ってくれていて、ありがとうございます……っ』

「……」



 これからは、頭の中であれこれ考えるのはやめようと思った瞬間であった──。





 ── ── ──





 頭を冷やすため──というのは建前で、あの部屋にいづらくなった俺は、逃げるように外へ出た。この際だ、アルカロの場所も調べておこう──そう思い、アルカロまでの道のりを歩く。

 アルカロは中央広場から東に数分進んだ路地裏にひっそりと佇んでいる。やはり、昼間は閉まっているようで、店の扉は固く閉ざされいる。しかし、本当にこの店が裏酒場となっているのだろうか? 俺が想像していたアルカロは、マフィア映画に出てくるようなある種の【VIP】が集う場所で、奥の部屋では銀色の玉をふたつ掌で転がしながら、猫を撫でているボスがいる──って、そりゃ何年前のマフィア映画だよ。さすがに今のマフィア映画のボスはそんなことしてないだろう……知らんけど。

 しばらく外観を眺めていたが、差し当たって変わったことはない。俺もこの時間のアルカロには興味がないし、場所も特定できたので戻ろうと踵を返そうとしたら、不意に肩を叩かれた。


「……ッ!?」

「なにをそんなに慌てているのですか、私です」


 場違いなメイド服を着たアサシンこと、ラッテが気配を消して俺に近づいていたのであった。


「気配消して近づくんじゃねぇよ……気配消す癖でもあるのか?」

「いえ、そんな癖がついてたら日常に支障を来すじゃないですか」



 ……あ、うん。そうだね。



「そんなことより、シュガーさんから話は聞きましたか?」

「あ、ああ……まあ、触り程度には、な」

「そうですか……あの、場所を変えても?」

「構わないけど、どこに連れていく気だ?」

「……ついてくればわかります」



 あまりにも単調で、素っ気ないやり取り。

 そういえば、出会った頃はこんな感じだったか……そうでもねぇか。





 ラッテの後ろをついていくと、一件の店に辿り着いた。

 いや、そもそもここは店なのだろうか?

 看板も出ていないし……って、ちょっと待て、俺はいつからラッテが『どこかの店に案内する』と錯覚していた……?

 ラッテは一言も『店に案内する』と、いってないじゃないか。……じゃあ、ここはどこだよ。


「入ってください……あまり綺麗ではないと思いますが」

「へ? あ、はい……お邪魔します」



 なんだ、今の『ここは私の家です』みたいな流れは……え? もしかしてここがラッテの家なのか? しかし、ラッテはメイド長だ、ここに住んでいるはずはない。


「……」


 確かに、お世辞にも綺麗とは言えないな……。床や、今は使われていない朽ちかけの家具には埃が積まれている。長年、この家には誰も住んでいないとわかる……多分、少なくともここ数年は誰もこの家に入ってないだろう。


「以前、私が住処にしていた家です」

「へ、へぇ……その、なんというか……いい家だな」

「無理に褒めなくてもいいです。私はこの家にいい思い出もありませんから」


 それはこの家に入った時から、なんとなくわかった。

 壁のあちらこちらに、ナイフで斬りつけた跡があったからだ。

 ナイフ投げの練習の跡や、日数を数えるような跡が、ありとあらゆる壁に傷跡のように残っている。


「この家は、私がまだハルデロト城に向かい入れられる前に住んでいた家で、私の暗い過去が残っているのです」

「……どうして俺をここに?」

「裏酒場にいくのならきっと知られてしまうので、私からお話しておこうかと……ご迷惑なら無理にとはいいませんが」


 ここに連れてきたということは、ラッテも相当な覚悟があって連れてきたんだろう。それなら、その気持ちを大切にしたいし、素直に興味があった。


「聞かせて欲しい」

「そうですか……わかりました」


 ラッテは緊張から少し震えているような気がしたが、はぁ……と大きく息を吐き出すと、その震えも止まった。


「では、〝死神〟についてお話します──」





 ラッテがまだ戦争孤児として生きていた頃の話──


 まだ旧・魔王軍が存在していた頃、ラッテが住んでいた南大陸ドルエスドが戦場になった。当時現役だった武神の力により、南大陸は半壊程度で済んだものの、その傷は想像を超えるものであり、死傷者多数、戦争孤児は死を待つのみとされていた。勿論、諸外国からの支援もあったが、子供に与えられる物資は僅かで、とても満足な生活を送ることはできない。そして、ラッテは自分の命を存続させるために、物資を盗むことにした。だが、それでも子供ができることには限界がある。このままでは死ぬ──そう思ったラッテが次に取った行動、それは、ナイフを手に取ることだった。

 ひとを殺めて物資を奪う──それは、ラッテにとって苦痛ではなかった。なぜなら、ひとが目の前で死ぬことは、彼女自身がすでに経験していることであり、人間が簡単に死ぬということを理解していたからだ。そして、ラッテは気づいてしまう……自分が類い稀なるナイフの使い手である、と。──そう、彼女は【ひとを殺める才能】があったのだ。

 その才能が開花した時はすでに、ひとを殺すことを生業としていた。

 殺すだけで金が貰える……なんて簡単な商売なんだろう、と。

 やがてラッテはまだ幼さの残る歳で、商売を主島に移した。もう、南大陸で稼げるだけ稼いだからだ。

 主島にいくために船に忍び込むのも容易く、ラッテは簡単に主島へと辿り着いた。

 生きるためには殺しもする──その生きかたは変わらず、依頼が入る度に、ラッテはひとを殺していった。もう、ひとを殺すことを罪とも思わない──その頃のラッテの瞳に映るものに光などなく、映り込むのは真っ赤な血に染まる自分と、床に転がる肉塊……それだけだった。

 殺し屋、ラッテ=イクシールの名前は裏稼業で稼ぐものなら知らない者はいないというまでに知名度が上がり、圧倒的な成功率の高さから、陰で【死神】と呼ぶ者もいた。この残虐性が後に【処刑執行人=死神】となる。


 つまり、シュガーの言っていたことは半分正解で、半分間違いということだが、それは今、関係のない話だ。


 たった数年で死神と呼ばれるまでになったラッテが、次に標的にしたのがこの国の女王、【サーラ=ミストリアス=ウェン=ハルデロト】である。どこかの国の依頼か、はたまたこの国の貴族の依頼かは定かではないが、当時のラッテにとって、その依頼成功報酬は馬鹿にできないほどの大金であった。無論、ラッテにそれを断る道理はない。自分の得意分野で成功を成し遂げ、もう、この生活にも終止符を打とう──そう考えたラッテは、依頼を受けた日の夜に、暗殺を決行した。



 だが、この依頼こそがラッテを嵌める罠だったのだ──。



 女王の寝室に潜り込んだ時、そこに待ち構えていたのは、現・双剣の鷹騎士団団長の【ジル=ラードレンス】と、今は亡き副団長の【シエン=マーシンズ】。さすがのラッテも騎士団団長、副団長相手では分が悪く、ついにお縄につくことになった。

 真っ暗な地下牢に入れられて、残すは死を待つのみ──そう覚悟していたラッテだったが、そこに、サーラ女王陛下と幼き日のレイティア(に変装している現・魔王のルネアリス)が現れた。そして、女王陛下はラッテにこう告げる──



『罪を償う意思があるというのなら、この場で誓いを立てて、今後一生、レイティアのことを守って欲しい。そう誓えるのであれば、あなたを見習いメイドとして雇いましょう』



 未遂に終わったが、剰え自分を殺そうとした相手にそんなことを申し出る女王陛下の御心に、今まで自分が感じたことのない感銘を受けて、ラッテはその場で誓いを立てた。

 こうして、ラッテは【死神】から【メイド】となり、現在は【メイド長】としてレイティアを守っている──。





 ラッテの話は、このような話だった──。


「……これが私の過去です」

「……」


 やはり、俺が知っている内容と違っている。

 ラッテは南大陸で発生した大規模な魔族との抗争により両親を失う──つまり、戦争孤児になる……まあ、ここまでは同じだが、その後の話が全然違っていた。

 俺が知っているラッテの過去は、南大陸の視察にきたサーラ女王陛下とレイティアが出会い、城でメイドとして働きつつ、アサシンとしての腕を磨いた──というものだ。



(このストーリーの違いはなんだ……?)



 だけど、本人が語っていることに間違いはないだろうし、俺の記憶違いの可能性もある。ただ、今聞いた話の内容が過酷過ぎて、思うように言葉が出せなかった……。



「私の手はもう、真っ赤な血で滲んでしまっています……やはり、こんな私が恋愛なんて虫が良過ぎますね。レオ……いえ、レオ様。あの時、私がいった言葉は忘れてください。私はこれからもメイド長として、レオ様を支えていきます」

「……」



 これでいいのか……?

 なあ、俺──これでおしまいで本当にいいのか?

 ラッテの過去が悲惨だからって、終わらせてもいいのか……っ!?

 ラッテはずっと孤独に耐えながら、本来、得られるはずだった愛情も知らないんだぞ……。

 クソが……なにか、なにか言葉を出せよ!? 声が出ないなら行動で示せッ!!

 このまま、ラッテが遠くに行ってしまうまえに──動けッ!!



 お前は()()じゃないのかよ──ッ!!

 ()()()()()のままでいいのかよ──ッ!!



「これで話は終わりです……帰りましょう」

「まだ……」

「……?」

「まだ、俺はなにも言ってないぞ……ッ」

「……」

「確かにラッテが背負ってる悲しみとか苦しみとか、そういうのを全て理解することはできないさ……でも、だからって、全部なかったことになんてできるかよッ!! 俺は弱いし、今も()()()()()()かもしれない……それでも」



 それでも、なんだ……? いや──、本当はわかってるんだろ?

 これが終わったら、あれが終わったらと引き伸ばしていたのは、決断するのが怖かったからだ。

 自分が傷つくのが怖くて、俺に好意を寄せてくれているひと達を悲しませたくないというのが俺のエゴだって気づいてるんだろッ!?



 そういうのは、もうおしまいにしようぜ……俺。



 この世界にきて、『モテ期がきたっ!!』って浮かれていたけど、そんなのは紛い物だ。

 認めるよ……確かに今、俺は完全に浮かれている。皆が好意を寄せてくれているこの状況を楽しんでいるまであった。

 でもそれは、一番やっちゃいけないことだ。

 誠意なんてあったもんじゃない。

 皆から愛される主人公(ヒーロー)? 大いに結構だ。でも、それは俺じゃないだろ──。

 ここでラッテを選べば、ルネアリスが願った未来とは離れる。それはつまり、元の世界へ帰れなくなるってことだ。



 それがどうした──?



 元々、俺は死んだような生活を続けていただけじゃないか、元の世界に戻って何になる? それなら、俺を……こんな俺を必要としてくれるひとがいる世界で生きたほうがいいに決まってるじゃないか。常に死と隣り合わせ? 上等だよ、元々死んでたんだからなッ!!



「俺は……ラッテが好きだ」

「……え?」

「俺は、ラッテ=イクシールが好きだッ!!」

「……」

「ラッテにとっては、俺なんてサエナイ様かもしれない……でも、それでも俺はラッテが好きなんだよッ!!」

「こんな……私でもいいんですか……? 私は死神なんですよ……? 何人もひとを殺めた殺人鬼なんですよ……それでもあなたは、私を好きと言うんですか……」

「過去は変えられないけど未来は変えられるだろ。……これから一緒に、明るい未来を作ろう……なんて、ちょっと臭いかな」

「いいえ……いいえ……っ」


 ラッテは泣いていた。

 その涙が喜びの涙であって欲しいと思う。


「ラッテ、これからこの国は激動の時代を迎えるかもしれない。俺が知っていることを全て話したいのは山々だけど、諸事情で話せない……でも、いつか話せる日がくると思う。だから、それまでなにがあってもついてきて欲しい。我慢できなかったら俺を罵ってくれて構わないから……」

「それじゃあ、その日がくるまでは私の愛しい〝残念英雄のサエナイ様〟ですね? フフッ……」

「……まあ、それも悪くないかな」


 この世界にきて、ラッテとこういう関係になるとは思っていなかったけど、これも俺の物語なんだろうなって、今ははっきり言える。



 さあ、これからが正念場だ──。

 やらなければいけないことは山ほどある。

 だけど、今だけは彼女(ラッテ)の浮かべた笑顔を見ていたい──。





 それくらい許してくれても、罰はあたらないだろ?

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