証拠品
「室内は荒らされていましたか」
「いえ。まだ精査はしてませんが、一見したところではそうはみえません」
はあ、と弁護士は溜息をついた。
「もうおわかりのご様子ですが、猪俣さんは亡くなった代議士の愛人でした。そして今健一氏がいいましたとおり、今のわれわれにとっては極めて重要な物品を今日の午後5時に、ここで健一氏に直接渡していただく約束だったのです」
「その約束をされたのはいつですか」
「4月8日の昼頃です」
「そのとき猪俣さんはどちらに」
「実家の群馬の片品村だったそうです」
――・・・ははあ、ピッキングの跡はそれか。
「それで、どういう品物なのでしょうか。物によってはわたしがこの場でお答え出来ますが」
「それが」
弁護士は心配そうに2階の青いシートを見上げた。
「物品は、現在係争中の事件の有力な証拠品となる可能性のあるものですので」
「現物を確認するまではいえないと。なるほど。それじゃですね、あなたたちは猪俣さんの弟さんをご存じですか」
弁護士は後ろをふり返って飛島に聞いた。
「知ってます。2度ほど会ってますから」
大きな声で飛島が答えた。
「わかりました。では、今は入口から中を見るのだけ許可します。室内は弟さんがこちらに来られたらということでどうでしょう」
「わかりました」
弁護士は飛島のところにもどった。
署が用意したテレビ週刊誌を男はめくっていたが、ほどなく、「この男だよ」と指を立てた。ハングリ・アングリというお笑いコンビのひとりだった。横から覗き込んでいた似顔描きの訓練を受けた若い婦警がすぐにペンを取った。




