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奇妙な留置人  作者: 伊藤むねお
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代議士の息子

 記者が離れていくと畑中がいった。

「兵藤。発見の時の様子、聞かせてくれ」

「あ。おい、佐々木巡査、まだいるよな。ここに呼んできてくれ」


 その時、兵藤の携帯に連絡が入った。口数少なく聞いていたがぱちんと畳むと畑中にいった。

「調査官。害者の口座から200万円が引き出されました」

「なに」

「引き出された時刻は4時23分。浦和駅前支店からカードでだそうです」

「あそこか。でかい支店で目に付かないところを狙ったな。ここからなら車を使えば早ければ15分くらいで行けるか。俺たちとひょっとするとすれちがったかもしれないな」

「かもです。それから害者の口座ですがまだ4000万円近く残高があるそうです」

 刑事全員の耳が動いた。

「200万円というのは限度額だったか」

 坂崎の声音には少し羨ましそうな響きがあった。斎木がすぐに答えた。

「今年の3月から変わりまして、カードでの払い出しは一日合計200万、振り込みなら一回で500万です。ということは、ホシは少なくても架空口座は持ってなかったということですかね」

「そうなるな。男はハナから害者のカードを狙ってやったということか。暗証番号はどうしたのかな」

「それですよね。まさか害者の誕生日などをアテにしてコロシまでやらんでしょうから、知っていたということでしょう。身辺の人間を早急に調べる必要がありますね」

 佐々木巡査がきた。

 ――女性が刺されて倒れているとの緊急司令を交番で聞いて、渋谷巡査と現場に到着したのは救急隊の人とほとん同時でした。二階の一番右の部屋の扉が大きく開いてまして、その前に女の人が立ってました。救急車の音を聞きつけて人が集まってきましたが、それまでは人の姿はあまりなかったです。二階に上がって害者の部屋を見ますと、すぐのところに害者が腹部から血を流して倒れていて、男が、ええ、さっきの人です、布をあてがってました。救急隊員が入りますと、男はすぐに隊員に代わりましたが、まだ息があるというので渋谷巡査は車まで下ろすのに手を貸してやりました。私は現場と彼を確保しておこうと思い、廊下で、「あんたがやったのか」と聞きましたら、「ちがう。いきなり戸があいて男が出てきた。そこで俺と鉢合わせになったら、男は向こうに走ってそこの手すりを乗りこえて飛び下りた」といいます。それで、そこまでいってみますと、下は畑であのとおり麦だか稲だかが一面に生えてますが、確かに飛び下りたらしい足跡がありまして、踏みつけて向こうの道路まで走った足跡も見えました。どっちに逃げた。どういう男だった、と聞きますと、「飛び下りたあとどっちに行ったかは見てない」。どうしてと聞きますと、「開いた扉から倒れている女の人が見えたからね。こっちが先だろうと思って」。そういう返事でした。その時に兵藤主任が到着しました――。


 畑中たちがもう一度現場の部屋にもどろうとしたその時だった。待ってください。困ります、という声がした。一同が振り向くと、スーツ姿の男がふたり血相を変えて警官の制止に抗っていた。年輩の方の男が警官に渡した名刺が畑中のところにやって来た。

「甲府の弁護士? 通してやってくれ」

 ふたりはすぐに畑中のそばに来た。背の高いこの男が指揮官だと目星をつけたようである。

「県警本部の畑中です」

「猪俣路子さんが刺されたんですって」

「あなたはどういう関係の方ですか」

「わたしは」

 弁護士のそばにいた三十を少し過ぎたくらいの男が前に出て言った。

「飛島達治の息子です。猪俣路子さんは死んだ親父の長い友人でした」

 畑中は目を動かしたが、すぐに、ああ代議士の、とうなずいた。

「お気の毒ですが、じつは猪俣路子さんはさきほど死亡が確認されました」

 な、なんと!

 ふたりは大袈裟なほどにのけぞった。

「ここに来られたのは?」

 畠中が尋ねた。

「約束があったんです。今日の午後五時に」

「どのような約束でしたか」

「それはいまは言えませんが、あの部屋を見せてもらえませんか」

 畑中が渋ったふりをしていると弁護士がいった。

「畑中さん。失礼ですが役職と階級は」

「刑事部調査官、警視です」

 弁護士はうなずくと、「ちょっと、お話が」と、畑中とだけ話をしたいという仕草をした。畑中は弁護士を人の塊から5メートルほど離れたところに導いた。


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