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奇妙な留置人  作者: 伊藤むねお
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記者会見

「調査官」と、館山が呼んだ。入り口の扉のところにいた。

「ピッキングされた跡がありますね」

 畑山たちが寄っていくと、館山が顔をあげてそういった。

「妙なんですが、跡が今ついたものじゃないようなんです。掻き傷が」

「いつ?」

「古いものではないのですが、少なくても今じゃないですね。掻き傷から出る粉がない。そっくり外して持って帰って精査したいんですが」

「あ、そう。頼む」

 館山はすぐに工具を出し始めた。

「主任」

 制服警官が入口から兵藤を呼んだ。

「なに?」

 兵藤が答えた。

「記者連中が早く会見をやって欲しいとうるさいのですが」

「調査官、どうしましょうか」

「お宅の課長が来たらやってもらおう。一般の人には道路までさがってもらって、今ロープを引いているところでやろう。さっきの人にはその間に署に移動してもらうといいな」

「了解。おい。君、聞いたとおりだ。他の連中にも手伝ってもらって場所を確保してくれ。課長が来たらやる。アパートとか畑には近寄らせるなよ」


 記者から借りた三脚の一段目に立って、到着したばかりの坂崎が兵藤からもらったメモを見ながら声を張り上げた。畑中たちはその少しうしろにいる。

 ――入間南警察署刑事課長の坂崎です。殺害されたのは猪俣路子さん、41才。F市柵来町5-2-1富木コーポ10号室、ここだね。同馬場町3-6、スナック「カタシナ」の経営者。本日4月10日、午後4時9分の119番への通報によって救急隊員および柵来西交番の警察官2名が現場にかけつけ、市内救急病院に運びましたが、出血多量のために同病院で午後4時38分、死亡が確認されました。凶器は害者所有の西洋包丁と思われます。負傷時刻は現在のところ3時45分から4時5分の間。第一発見者は男性、身元氏名は本人の要請により申し上げられません。119にはその男性からの依頼によって隣の部屋の住人が通報。現場から逃走した男がいて現在重要参考人として緊急手配中です。その男は年令推定20代後半。一見、宅配便のトラック運転手の身なり。害者の部屋から出てきたところを訪れた第一発見者と顔が合い、東側の手すりを乗り越えて畑に飛び下り畑の中を走り、道路に出てスーパーの方に逃亡。殺傷に至った動機経緯などは現在調査中。以上です――

 4、5人が輪の中から飛び出していったが残った記者から質問が出た。

 ――課長。特別捜査本部が立つのですか。

「目下、県警本部と協議中です」

 ――発見者の男性が容疑者のひとりとは考えられないのですか。今はどこですか。

「その男性に容疑をかけるなんらの理由も目下のところはありません。今は署に来てもらって詳しい状況説明をしてもらってます」

 男が刑事と一緒に出ていったのに誰も気がつかなかったようである。

 ――え? いつ行ったんですか。

「皆さんが来る前だよ」

 ――男性は害者の知り合いなのですか。どういう理由で訪問したのです?

「近所で偶然に害者の財布を拾い、中の運転免許証から住所がわかり、近くだとわかったから自分で届けようと思って訪問したとのことです」

 ほう、という声があがった。

 ――感心な方ですね。しかし、住所を見てすぐに来れたというのは、この辺りに土地勘があるということですか?

「無くちゃこれないよね。でも詳細はまだわからない」

 ――われわれに会わせてはくれないのですね。

「さっきもいいましたように、本人がそれを希望しておりません。皆さんの要望は伝えておきますが、しばらくはその男性についての追求は控えてください」

 ――それと容疑が浮かぶまではですよね。

 すばしっこそうな若い記者がいった。

「まあま。先走らないこと」

 そういって坂崎はこれで終わり、あとはまた会見しますといい、最後に、「このアパートの人たちに余りアタックしないでよ。これ、ちゃんとみんなに言ったよ。いいね」といって会見をうち切った。



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