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奇妙な留置人  作者: 伊藤むねお
11/21

東日新聞

 立花は鈴木署長を見た。

「鈴木署長。似顔絵はえらくよくできてたらしいですな。公安ではひと目でわかったそうですよ。もったいぶるまもなく」

 須藤が時田の写真をテーブルの上に置いた。覗き込んだみなが嘆声をあげた。似顔絵はその写真を見て描いたのではないかと思えるほどの出来映えだった。

「お褒めにあずかり恐縮です」

 署長は嬉しげに頭を下げた。

「それじゃ。皆さん、また明朝8時に。畑さん、ちょっと」

 立花が立ち上がると須藤がすぐ後に従った。坂崎課長が素早くドアを開いた。

 玄関先に黒い公用車が音もなく現れた。運転手がドアを開けると、乗れという。畑中が中に入ると運転手は外からドアを閉めた。須藤は前もっていわれていたらしく外にいる。

「畑さんにだけいっておく。仙道一課長にもいってないからそのつもりで」

「はい」

 畑中は緊張した。

「東日新聞の政治記者、大河内茂、四十二才。こいつは社内でもアクが強いので有名らしいのだが、実は時田と過去何度か会っている。メモリー改造も、このふたりがつるんでやった可能性があると警視庁ではみてるようだが、相手はなにせ東日だ。ちょっとの間は大河内をマークしてたらしいが今は止めている、といっている。が、今回の事件だ」

 道川さんは東日嫌いだ。飯島長官もな。

 立花は最後を聞こえるか聞こえないかというような小声でいった。道川というのは警視庁の刑事部長である。

「与党と警察叩きに熱心な新聞ですからね」

「叩かれても仕方がないやつがいるのが辛いところだがな。道川さんは、最近また大河内マークを始めたとの感触を俺は得ている。そういう状況だ。東日には十分に気をつけてチョウ」

「気をつけます。ところでお急ぎのところ申しわけないのですが、ひとつだけ」

「なんだい」

「部長は仙台弁、できますよね」

「藪から棒だな」

 むっとしたような顔をしたが、畑中が無駄なことに自分の時間を使うような男でないことを知っていた。

「じつはあの似顔絵は第一発見者の正確な記憶があってできたのです。風貌とは裏腹になかなか冴えた男で何者か気になるのですが、名前住所を明かしません。しかし、怒らんで聞いて欲しいのですが、言葉に部長の抑揚と時々似たものを感じるんです」

「へへへえ」

 立花は厚めの唇を曲げてみせた。

「仙台人だというのを確かめるテがありませんか。それがわかればそこから崩します」

「ほう、ほう、ほう」

 考え込んだ顔になった。頭がいいのが自慢の立花はアイデアを捻り出すのが好きだった。というよりは考えること自体が好きらしく、クイズなどを考えていることがある。うっかり先に答をいってしまって課長が怒鳴られたという笑事件があったほどだ。今も嫌そうな顔をした割りには乗ったらしい。

「わかった。思いついたら畑さんの携帯に電話しまっショ」

 キャリアによくあることだが、全国各地の赴任先で覚えた方言を巧く使ってみせる。立花もそうだった。畑中はよろしくと頭を下げてさっと外に出た。われながら一石二鳥のうまいオモネリだったと苦笑しながら。


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