朗報
本当ですか!
飛島健一のその時の声は、事務所にいた全部の人間がふり返ったほど大きかった。
――ええ。時間から考えて九分九厘まちがいありません。ほんとうは確かめてからお電話すべきなのですが、思い出しましたら少しでも早くお耳に入れたくなりまして。
「いやあ。ほんとにありがたいです。親父がさぞかし喜んでくれるでしょう」
――いいえ。先生がお亡くなりになった折りには、健一さんには本当によくしていただきましたから。
「こちらこそですよ。死んだお袋の代わりを長いことやっていただいたんですから。それで、今ご自宅ですか」
――いえ、それが群馬の実家に弟と帰ってるんです。いつか申し上げた果樹園の件で。それでどうしてもあした一日はここにいなくてはなりませんが、明後日の十日の午後五時なら自宅でお渡しできます。
「そうでしたか。わかりました。十日午後五時ですね。わたしが必ず直接お伺いしますので、それまでは絶対に誰にも渡さないようにお願いできますか」
――承知しました。ではご免下さいませ。
「あなた。どうなさったんですか」
一番近くにいた健一の妻が尋ねた。
「ああ。さすがに親父だよ。おまえにも心配かけたがこれで大逆転だ。ざまあみろ」
健一は拳で宙を打ってみせた。
秘書の真壁が寄ってきた。
「先生。誰からです」
「あ、いや真壁さんに隠すつもりはないのだが万一、期待外れだと悪いですからね。明後日の夜まで楽しみをとっておいて下さい」
健一は鉄腕アトムのように両腕を上げたままのポーズで事務所をでていった。そちらに母屋がある。妻はわけはわからぬが夫の久々の明るい声が嬉しく、事務員たちに頭をさげるといそいそと夫のあとを追った。




