大作戦
7月16日
加奈と出会った次の日の朝、朝日柊人は元気に叫ぶ目覚まし時計を叩いて黙らせ、朝食を父と母と姉で食べ、制服を着て、洗面台へ行き、歯を磨いて顔を洗って寝癖を直し、学校へ行った。
父と母と姉は柊人のあの能力は知らない。柊人はそう思っている。
とぼとぼと一人で学校へと歩いた。教室へ入り数少ない柊人の友達が挨拶をする。
「柊人さんおっはよー!おやおや?どうしたんだい?浮かない顔をして?彼女に振られたのかな?」
このクラスメイト、比留間愛美は柊人へ元気に挨拶と冷やかしをプレゼントした。
「おはよー。って、元々こんな顔だし彼女なんて出来たことないわ!悲しくなること言うんじゃねぇ!」
柊人も挨拶を返し、普通にしていた顔の冷やかしと彼女ができないそこそこ胸に刺さる事を言われ声を荒らげた。
続けて、男友達の佐須見福真が話しかけてきた。
「おっす柊人!いい夢見たか?そんなことはどうでもいい!この問題が分からないんだよー、提出今日までなんだよー」
福真も愛美と一緒に元気に挨拶をして自問自答をして問題を手伝ってくれとなかなかに話すことがコロコロ変わることを柊人に言う。
「おっす。あー、ここか。ここはこうしてこうやれば…」
柊人は挨拶を返し、問題の解き方を教える。
そんなやり取りをして、授業を睡魔と戦い乗り越え、今日も学校が終わった。
「じゃーねー!柊人さん、福真くん!」
「ほんじゃ!柊人!愛美ちゃん!」
「また明日ー福真、愛美」
朝と同じメンバーで挨拶し、別れた。
帰り道で柊人は昨日のことを思い出す。廃病院、加奈、肝試し、怒り、憎しみ、憎悪、険悪
「さて、どうやって加奈達を昔のような平和だった場所へと戻すか」
独り言を呟く。柊人は頭をフル回転させた。横を通り過ぎた二人の女子に独り言を聞かれ横目で見られながらコソコソとしているのも気にせず。
考えているのもつかの間、目の前に家があることに気づいた柊人。家に入り、肩っ苦しい制服を脱ぎさらに集中したいと思った。
「ただいまー」
「おかえり柊人」
その声は朝日真衣。柊人の姉だ。
「姉さん先に家に着いてたんだ。珍しいな」
柊人と真衣は同じ高校。舞は柊人より一つ学年が上だ。そしていつも舞は放課後にクラスの友達と長話などをして柊人より帰ってくるのが遅いのだ。
「今日は友達とゲーセンいくから急いで帰ってきたんだよ。ほんじゃ行ってくるわ」
と言い、すぐ玄関を開け飛び出して行った。
「い、いってらっしゃーい」
姉を見送り、廃病院へ行く準備をする。
「色々持っていくか」
柊人は必需品意外にもごく稀に使うものや時々使いそうな物も一緒に持っていく癖がある。筆記用具や色紙、絆創膏、ビニール袋、ティッシュなどなど。
そんな身支度10分ほどし、やっと家に出た。
廃病院の目の前まで行くと、廃病院の入口で加奈が周りをキョロキョロと見渡していた。そして柊人と目が合うと、加奈の美顔に花が咲いたような、笑顔が咲き、美人が笑顔でおまけにはこちらへ走ってくるという最高のシュチュエーションと見れた柊人は頬の肉が緩んだ。
「柊人ー!待ってたよー!」
加奈は右手を高くあげ柊人へと駆け寄る。柊人は緩んだ頬をしっかりと治し、声をかける。
「遅くてごめんな!もしかしてずっと待ってたのか?」
「まぁ、待ってたのは待ってたけど、ね!」
加奈は待ってたと言った方がいいのか悪いのか少し悩んでいた。
「ありがとうな。」
ふと、柊人がそんな言葉を加奈にかける。すると加奈は顔を赤くして、
「あ、あ、うん。どういたしまして!」
と、ぎこちない返事をした。
「ところでさ、あの、他の皆さんにも挨拶しておきたいからさ、中に入ってもいいか?」
柊人は廃病院の方を指でさし、中に入ってもいいかと加奈に質問する。
「あ、あぁそうよね!立ち話もなんだし、中で話そう!あ、でもちょっと待ってて、他の人、というか霊と話してくる」
生きた人間が入ってくることを説明してくると言う。
「なんでそんなに顔が赤いんだ?」
ただただ柊人は純粋な気持ちで質問してしまった。すると加奈はさらに顔を赤くし、耳の先まで林檎の様な顔で、
「え?なんで?そ、そんなに赤いかな?あ、あれよあれ!柊人が来るまでずっと筋トレしてたのよ!はぁー疲れた!腕と脚がパンパンだわ!」と、嘘100%の理由を説明した。
すると柊人はすかさず
「絶対嘘だ。あった時は顔赤くなかったぞ」
と、まぁ嘘があっさりとバレた。流石に加奈も女心が分からない柊人にイライラしてきた。
「うっさいわね!タコ!」
柊人に怒り、廃病院の中へと入っていった。
一方柊人はポカンと口を開け、足音をわざとたてて歩く加奈を見届けた。
5分ほど経過して、すっかり怒りも冷めて、スタスタと歩く加奈がこちらへと向かってきた。
「はいっていいわよー」
「あ、おう。分かった」
やけにあっさりしていた加奈の声を聞いて柊人は少し返答が遅れた。そして、柊人は廃病院へ入る加奈の後ろをついて行った。
廃病院に入り、柊人はまず、辺りを見渡した。
廃病院は、入口は自動開閉式の扉ではなく、珍しいことに屋敷にあるような片方ずつの手で右と左の扉を押して開ける木の扉だ。反対方向には天井に受付という文字が垂れ下がって、その下にはもちろん受付がある。受付のそばには埃をかぶった椅子がズラリとならび、受付の右には柊人はよく分かっていないが、薬剤部やコンビニ、相談室、何も映っていない真っ黒な情報板なとがあり、奥には2回へ上がる階段がある。
「へぇー。結構古い感じの病院なんだなー」
「まぁ、古い変わりに高級感溢れるお屋敷みたいな感じでいいじゃない」
それを聞いて、柊人はそれもそうだな。と思う。
「そんで、皆さんは何処に?」
「あぁ、2階で集まってるわよ」
そうゆうことなので、二人は2階へ上がる。
2階は一直線に埃をかぶった絨毯の掛かった廊下があり、その右と左に10室ずつ部屋がある。上には電球がならび、いくつか割れている。
そして、そこには部屋の扉の隙間から顔を覗かせる霊が多々おり、奥の方では何人かの霊が集まってるこちらを見ている。ただ、霊たちは柊人と加奈を敵意や不信感、否認感、そして期待がこもった目でジロジロと見ている。
「皆さん!はじめましてこんにちは!俺は朝日柊人と言います!見られている通り生きている人間です!霊が直視できる理由は分かりません!」
大声で柊人は霊達に挨拶をした。これには霊達もビックリ。皆目がひと回り大きく開いた。加奈は少し引き気味である。
「そして!この皆さんにとっての住まいが荒らされてると、ここにいる加奈さんからお聞きし!私朝日柊人はこの現状を変えたい!そう思いました!なので私が皆さんを救います!一刻も早くこの現状を変えましよう!えいえい おー!えいえい おー!」
加奈どころか皆引いた。大きく引いた。そして、柊人の掛け声は、柊人だけの掛け声で終了した。
「・・・」
沈黙の間。そして、半数の霊が気づいた。柊人の目が潤んでいることに。
「その言葉本当に信じていいんだな?」
急に20代後半の男性の霊が柊人の「救う!」という言葉を信じていいかと問いかけてきた。
「はい。頑張ります」
柊人は決意のこもった目で男性を見ながら頷いた。
「そうか。」
しばらくその男性は俯いて悩む。この青年を本当に信じるべきかどうかを。
そして、決断をした。顔を上げた。決断を話す。
「よし。信るその言葉。 だからさ、俺にも手伝わしてくれ」
その言葉は柊人の胸に響いた。自分を信じてくれることに、更に手伝ってくれることに感動した。
「ありがとうごさいます」
柊人は頭を下げた。
「そんな敬語で話すなよ。もうダチだ。あ、俺の名前は橋田涼太な。この病院のリーダーみたいなもんだ。よろしく頼むぜ柊人さんよ」
「あぁ、分かった。涼太さん」
すると、加奈がホッと胸を撫で下ろし息を深くはいて安堵した。
「はぁー。良かったよ。柊人追い出されるかと思った。私が最初に説明した時はあんまり納得したように見えなかったから」
「まぁ、最初はあれだったが、会ってみて確信したぜ。こいつは本気だって。俺達死んだモンを助けるなんて馬鹿みたいなことしてくれるのが本気だってな」
涼太は笑って柊人の背中を叩いた。
「あは、アハハハハ」
馬鹿と言われ柊人は苦笑いをする。
「んなこたぁいいんだ。加奈!てめぇの失態はてめえで直して来い!と、言いたいんだがお前にゃそんな力無理だ。そんな時にこんな良い奴がいる。全力で柊人についていけよ。柊人、こいつ存分にこき使っていいぞ」
涼太は加奈に方向を向け自分が犯した罪を改めて叱る。そして最後にまた柊人の方向を向いて加奈を好きな様に使えと言う。
これには加奈は涙目で改めて反省し頷く。
一方柊人はただでさえ苦笑いしていたのにさらに苦笑いせざることを言われ。顔が引きつりまくっている。
「ま、まぁ。他の横から除いてる霊さん達もよろしいですかね?」
柊人は他の周りの霊にも確認を取る。
するとドアの隙間の霊達が無言で頷く。了解は得れた。早速柊人は作戦を説明しようと試みる。
「では、作戦会議をしましょう」
「ええ」
「ああ」
「はい」
「うん」
「分かった」
「よし来た」
柊人の作戦会議開始の一言で加奈と涼太の返事で、続けて他の霊達の返事も受け取れた。
霊達は柊人の周り駆け寄り、集まる。
「それでは、開始します。作戦第1…」
肝試しやるヤツやっつけ大作戦との名の会議が始まった。
ペースは遅いですがよろしくお願いします!