出会い
7月15日 夏
その男、朝日柊人はいつものように学校に行き、
学校が終わったら、部活も入ってないので、いつものように家へ帰る。
家へ帰ってからはぶらりと散歩をする。30分間ほどの道のりを、ただただ、周りを見渡して、ゆっくりと歩く。
その散歩道の途中には大きな廃病院がある。壁はボロボロ、草の枝が病院の壁にまとわりつき、日もまだ沈んでなくとも薄気味悪く、沈んだら沈んだよりいっそう気味が悪く、一人で入るには並の人間では無理だろう。そう、一人ならばだ。
そんな廃病院は彼の通う学校では1年ほど前から有名になった心霊スポットであり、夏には学校のクラスではっちゃけているグループが「肝試しに行こうぜ!」などと言い、この廃病院で肝試しと称し、男と女でワイワイキャッキャと騒ぎまくるそうだ。
そんなことを思いながらただ無言で通り過ぎようとした時、一人の若い女性(見た目は柊人よりかは小さい、髪の長いロングの女性)が廃病院から出て、こちらへ走ってきた。
「このクソ人間が!」
殴られた。腹に。
「ぐへぇ!!!!」
その瞬間、柊人はあのなんとも言えない嘔吐感溢れる痛みが脳へ走り、その場に四つん這いで丸くなった。
「え?殴れた?」と、その若い女性は言い、目を丸くした。
「な、なんだお前いきなり、、いってぇ、」
柊人はいきなり腹に殴られて、当然のごとく頭に血がのぼり、怒鳴りつけようとするが痛みの方が酷く、怒鳴るにも怒鳴れない。
「あ、わ、あの、大丈夫ですか?!」
その若い女性は、腹を抑えようやく立ち上がった柊人の腕も持ち上げ、立つのを手伝う。
「あ、あの、ごめんなさい!」
柊人が10秒ほどかけて立ち上がると同時に大きな声で若い女性は頭を下げた。
「てめぇ、いきなりなにしてん、、」
と、言ってようやく怒鳴りつけようと声を出した途中、一瞬顔を上げた若い女性を見て、あまりの可愛さをに怒鳴る声が途中で遮断された。
「う、まぁ、仕方ないな。人を殴りたい衝動にかられる。そんな時はあるさ」
そんなことはおそらく日本中どこをさがしてもいないだろう。そんな意味のわからないことを言って柊人は許した。
「あ、ありがとうございます。あの、あなたは生きた人間ですか?」
「そうだよ。生きてるよ。亡くなったかわいい人間さん」
そう言って柊人は自分は生きていると言った。
「あわわわわ、な、何故私のことが見えているんですか、、しかも触れましたし、、あなたは何者ですか??」
と、若い女性は柊人に続けて質問をする。
「普通の人間だよ。まぁその事については俺もわかんないけどなんか見えるんだよ。触れるし、話せるしね」
「へ、へぇ、、そうなんですか。私が生きてる人に触れて、喋れて、存在が感知されるなんて初めてです」
驚きを隠せないようだ。そして少し感動もしている。続けて、若い女性はこんなことを質問する
「あなたのお名前を聞いても、、」
「あぁ、俺の名前か。俺の名前は朝日柊人。君の名前は?」
「私は夜見加奈。よろしくね」
二人は自己紹介をし合った。そして加奈が手を差し伸べる。柊人も手を差し伸べ、握手をした。
「それにしても、なんで俺に殴りにかかったんだ?」
「あ、それはね。生きている人間が嫌いだったのよ。変な話よね。」
「変な話だな。何でだ?」
柊人はストレートに変な話だと頷いた。それを聞いて加奈は小さな声で「なっ、」と他に言い方はあるんじゃないのと言いたげな気持ちだった。
「詳しく聞いてもいいか?」
「ええ、あなたには聞いて欲しいわ。私達を助けてくれるかもしれないしね」
そう言って、理由を淡々と述べ始めた。
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その廃病院は霊たちが静かに暮らしていた霊たちにとって死後の自分の家のような場所だった。
ある日、加奈が生きている人間を嫌いになる事件が起こった。
それは加奈と柊人が出会った1年ほど前。
肝試しと称した男女8人のグループがこの廃病院に入ってきた。否、霊たちにとったら侵入、不法侵入してきたのだ。
「おー!怖ェェ!」
「ヤダー!」
「お?怖いのか?俺に抱きついてきていいぞ?」
「死ねカス!俺に抱きつけ」
「うるせーよお前ら、カメラで撮ってるんだから声が入るんだよ」
「お化けいるかなー?捕まえてペットにする!」
「うっわ虫いる!きったね死ね!」
「虫なんかいるに決まってんだろこんな汚い病院」
それぞれがそれぞれの意見を発しているが、、
だた一つ皆一致していることがある。
(死んだ者を馬鹿にしている事だ)
そしてそのグループは廃病院へ侵入を進める。
その頃、霊は誰か生きた人間が侵入してくるのを感知した。
「え、嘘でしょ」
「俺達が静かに暮らしている場所になにをしに来たんだ!」
「どうするの?脅かして追い返す?」
「それだとカメラに映ってしまう可能性がある。そうなればここは静かに暮らせんぞ。それに脅かすと言っても物を動かして物音がしただけでそれはそれで静かに暮らせなくなってしまう。」
「ママぁ。もうここは駄目なの?」
「大丈夫よ。私たちが大人しくしていればきっとまた皆とここで遊べるわ」
霊たちは焦っていた。もしカメラや写真に映ってしまえばここは瞬く間に霊がいると広まり、心霊スポットとしてこの廃病院に人が押しかけ、この廃病院が荒らされるからだ。
そう話し合ってる間にも、彼らは侵入を進める。
「よっしゃぁー心霊写真撮るぞー」
「ヤダー。怖いよぉー」
「ホレ、抱きついてきていいって、というか、抱きつけ、それ以上に抱きたい。」
「死ねゴミ。土に還れ」
「同感だ。二回死ね」
命を軽々しく馬鹿にしながら写真を取りまくり、カメラを回し続ける。
「やばいぞ!写ってしまったら最後だ!逃げろ!」
「分かった!お前らあっちへ移動しろ!」
この廃病院の霊は彼らから反対方向へ移動する。
逃げることを続けて25分ほど経って、霊は彼かに発見されてしまった。
「おい!コレ見てみろよ!」
といって一人の男は皆に撮った1枚の写真を見せる。
「なんだ?映ってたか?うお!」
「えー!怖いよー。キャア!!」
「見せろ見せろ。なんだこりゃ!?」
彼らがその心霊写真に目を向ける。
そこに映っていたのはもちろん霊。
長い病院の廊下の右端に髪の長い白いボロボロの服をきた女が空いていた病院室の扉の間に映っていたのだ。
その女は加奈だ。
ちなみに普通の人間が死んだ者を見ると、ボロボロのいかにも絶望や悪、混沌、漆黒という言葉が似合う醜い姿で認識されてしまうのだ。
話を戻そう。これが見つかり、一瞬の間に学校で廃病院が心霊スポットとして広まり、大量の人間が押し掛かかり、荒らし、壊し、罵り、傷つけた。
見つけられてしまった加奈は他の霊に失望され、虐められ、省かれた。
加奈は泣いた。泣いた。泣いて、泣いた。号泣した。絶望した。激怒した。激昴した。
そして、生きている人間が嫌いになった。
それから生きている人間と触れられず、すり抜けることを利用し、生きている人間に対して空振りの暴力を続けた。
1年後、ある男が目の前を通りかかった。いつものようにすり抜けるパンチをお見舞いしてやろうと体中のパワーをこの拳に集めてお見舞いしてやった。するとビックリ。
スーパーウルトラクリーンヒットだ。
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「と、言うわけよ」
「そうか。辛かったな」
柊人は優しく声をかける。
すると、加奈は頬を赤らめて、
「あ、ありがとう。」と、言った。
「もう大丈夫だ。俺がなんとかする。待ってろ平和の廃病院はスグそこだ。平和は寝て待てって言うだろ?」
「ほ、本当?出来るの?あと、家宝は寝て待てよ。」
加奈ちゃんと間違ってることわざは指摘する。そこはしっかりしたいタイプだ。
「あぁ任せておけ。そんじゃまた明日な。加奈」
指摘されたことはスルーをして。別れの挨拶を切り出した。
「あ、あぁ、うん。また明日ね。柊人」
また加奈は頬を赤らめて言った。そして最後に相手の名前を口にして。
「そんじゃあーなー」
加奈に背中を向け、右手を上に上げ振って。スローペースに家へ帰った。
「うん。楽しみにしてるね。柊人」
柊人の後ろ姿を見届け、加奈も手を振る。
5分ほど歩き、柊人は呟く。
「どうしよ。分かんない」
と、今までのカッコ良さが吹っ飛んだ一言を発した。
よろしくお願いします