11.世界に一つだけの魔法書作成
アランと約束をした後、図書館を出ると先ほど別れた兵士がアランを捜していたようで外の通路で声を掛けて来た。
「アラン様、こちらでしたか。」
「なんだ?」
「先ほど武国の砦にも使いを向かわせてあっちからも数名武闘会に出場させるように取り計らいました。」
「さすが仕事が早いな。ところで今日からここで寝泊まりするから用意を頼む。」
「はぁー。聞いてませんよ。そんなこと!」
「今言ったからな。ところで大会開催までどのくらい必要だ?」
「場所を整えるだけですので三日もあれば会場の方は問題ありませんが出場者が足りなくないですか?どうするつもりですか?」
「それは大丈夫だ。今から広間で見繕うからな。」
「はぁー、広間?・・・ちょ・・・アラン様、待って下さい。」
アランは喚く兵士を置き去りに広間に向かっていく。
レイはこのままここから引き返して図書館で新たな本でも捜してこの腕輪の外し方を捜そうかと迷ったがそれは諦めた。
この腕輪が王位継承権を現すものというアランの指摘は間違いないし、確かに王位継承を外れればこの腕輪は外せるという話にはある意味納得できる。
それに王位継承の仕方はその国独自のものがある。
ならこの図書館で調べてもそれについては書かれていない可能性が高い。
捜すならレイの祖国であるアントワープ国で目的の本を捜すのが一番当たる可能が高い。
くそっ。
もっと早く気がついていたらここに来る前に見つけられたかも知れないのに・・・。
いや待って。
武国にいる侍女たちに聞けば!
あっ・・・あいつらが素直に教えてくれる?
ウーン、やっぱり今回の件で優勝する方が話が早い・・・。
「レイ様は行かれないんですか?」
顎に手を当てて色々思考を巡らせているといきなり背後から兵士に声を掛けられた。
ビックリして後ろを向くとごつい体付きをした武国の王都から一緒にこちらに来た兵士がそこに立っていた。
「えっとですね。場所が・・・。」
「それならこちらです。」
なりゆきでレイも広間に向かうことになった。
アランが広間に入ってからかなり時間が経っていたのでおおよその話は終わっていたようで今は出場者を確認しているようだ。
「本当に今のお約束は間違いない話なのでしょうか?」
「武国は武を重んじる。魔国は魔力だろ。なら魔力が高いものを俺の右腕にしてやる。悪い話じゃないしそっちも昔ながらのやり方だ。従いやすかろう。違うか?」
「たしかにその見識に間違いはありませんがなぜあなたは私のような老い耄れに出場せよとおおせでしょうか?」
「王家に連なるものがたまたま魔力が多かっただけで王家じゃないものが少ないとは限らない。違うか?」杖を持った老人がいきなり鋭い眼光でアランを睨み付けた。
アランとその老人が睨み合う。
そのうち老人の方が根負けしたらしく空笑いを浮かべると出場することに了承の意志を彼に伝えた。
「これで出場者が決まったな。」
横に座って出場者の名簿を作っていたらしい兵士が盛大に溜息を吐きながら決まった出場者に簡単に説明を始めた。
「じゃ、後は頼む。」
扉前で呆けていたレイに気がつくとアランは彼女を伴なって広間を後にした。
どこに行くかと思っていたら主塔がある建物の外に出てその横に立っている横長の建屋に入った。
中はそれほど広くなくその部屋には長テーブルが置かれ奥からこちら側にいい匂いが漂ってきていた。
「食堂!」
「ああそうだ。そこそこおいしいぞ。」
アランが長テーブルの一角に座ると後ろから護衛の為について来ていた数人が彼の為に何かを取りに向かった。ほどなくしてこんもりと大皿に盛られた肉の山がテーブルの上に置かれた。
小皿が配られ思い思いにそこからスプーンでとって食べる方式のようだ。
レイも恐る恐る小皿に盛られた肉を齧ってみた。
不味くもなく美味しくもないまあ普通の料理だが彼らには味はどうでもいいらしく全員がそれをバクバクと食べていた。
レイもそれにならいほどほどにそれらを胃におさめた。
その間彼らは三日後に開かれる武闘会の話をアランにしきりに聞いていた。
「アラン様。対戦は魔力を持つもののみにするんですか?」
「いや、別に魔力が無くても出たければ出て構わん。だが一対一とは言え魔術師相手では苦戦するぞ。」
「そりゃまあそうでしょうけど、さすがに魔力防御の武具くらいはつけさせて貰えるんでしょ。」
「そうだな。まあそれくらいは許容範囲だな。」
「なら俺も出ようかな。」
「おいおい。ここにいる観客は武国の人間じゃないんだ。出てもモテはせんぞ。」
「あっ、そうか。」
どういう事?
レイが疑問符を飛ばしているとアランが説明してくれた。
武国で武闘会を開いた時にそれに上位入賞すればモテモテになれるらしい。
よくわからないが国が違えばモテ方も違うんだろう。
レイは自分に関係ないとその話はスルーした。
昼食はそんな話で盛り上がっていたがレイにはその話題はどうでもよかった。
そのうち食事は終わりそこに先程広間で出場者たちに説明をしていた兵士がアランの所にやって来た。
「アラン様。出場者の名簿作成は終わりました。後は各人に当日使用する武器もしくは魔法書などの登録をして貰えば終わりです。」
「さすがだな。」
「ありがとうございます。ですのでレイ様。こちらに当日ご使用になります武器もしくは魔法書などの登録をお願いします。」
兵士はそういうとレイに登録用紙を手渡すと昼食を摂りに他の席に行ってしまった。
「使うものね。」
レイはその紙を前に頭を捻った。
たぶん他の魔術師なら杖もしくは魔法書なのだろうが生憎レイには両方とも必要ない。
さて、では何にしようか。
魔法書は別にいらないが前世知識を生かした魔術式を書いたものは必要だろう。
これがあれば魔力の消費を極端に減らすことが出来る。
なら自分で前世知識の詰まった魔法書を作成してしまおう。
これなら効率的に魔力が使え発動も早い。
考えれば考えるほど好都合な代物だ。
レイはアランに本を作るための紙が欲しいと懇願した。
「紙?」
レイは頷いた。
「紙なんか何に使うんだ?」
「そりゃ三日後に開かれる武闘会で使うためによ。」
「まさかわざと負けようとか思っているのか?」
アランが恐ろしい顔で詰め寄って来る。
「そんなこと考えてない。むしろ勝つために必要なの。」
「俺がその腕輪を外す方法を知らないと思っているからか?」
「だから勝つためって言ってるでしょ。」
「紙が必要なのよ。」
あまりレイがしつこく要求するので最後にはアランも投げやり気味ではあるが昼食を終えて食堂を出ようとしていた兵士を捕まえて紙を用意してくれた。
「ありがとう。後は書くところだけどどこかない?」
アランは訝し気にレイを見ながらも彼女を砦にある執務室に入れてくれた。
「他にいるものは?」
「後は大丈夫。紙さえあればいい。」
レイはアランから用意された紙を執務机に一枚ずつ広げてそれに魔力で前世知識の文字を書き綴った。
一枚書いては一枚一枚に丁寧に耐火/耐水性の魔法を掛けた。
数枚であれば問題ないがそれが魔法書クラスの厚みにあると結構の魔力を持っていかれる。
レイはその日一日をそれを書くのに費やした。
夕方、アランがレイを夕食に誘いに来たが彼女はそれに見向きもしなかったというか夢中になり過ぎて気づかなかった。
明け方、描き続けた書類の束を前に丁寧にそれを重ねるとそれを本にして机に突っ伏した。
翌朝、レイを執務室に呼びに来たアランは本を抱えながら爆睡する妻を発見して呆気にとられた。
「一体こいつは何をやったんだ。」
本を抱えたレイをそのまま抱き上げるとその砦でアランが使っている寝室にレイを運び込んだ。
レイはそれから当日の朝まで無茶な魔力消費をしたせいかぶっ続けで眠り続けた。