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01.序章

 こちらの国では珍しい黒髪に黒い瞳。彫の乏しい顔に曲線がないほっそりとした体またの名を貧乳。

 そんな少女が一般庶民と同じような服装に身を包んで鍬を片手に畑を耕していた。

 チリンチリンチリーン。

 玄関先の鈴が風の乗って涼やかな音色を響かせた。


「こちらに食料を置いておきます。」

 離宮の台所から商人の声が聞こえ、少女は”ありがとう”と声を掛けると傍に置いてあった濡れタオルで手を拭うと離宮にある台所に駆け戻った。


「いつもご苦労様ね。ちょっと待ってて頂戴。」

 少女はそういうと奥にある部屋に消えた。しばらく小太りな男がそこで待っていると小銭を持った少女がまたそこに現れた。

「はい、代金よ。」

「ありがとうございます。ではまた一週間後に。」

 男はそういうと離宮を離れて行った。

「さあて、食事にしようかしら。」

 少女は厨房に入ると商人が持って来た袋から野菜に塩と胡椒をとり出すと奥の厨房に向かった。すぐにそれを台の上に置くと奥の棚に閉まってあった干し肉を取り出して火をつけそれを炒め始めた。

 いい匂いが周囲に漂っていく。

 少女はすぐに炒めたものを皿に盛り、戸棚からパンを取って今度はスープに取り掛かった。

 数十分後。

 少女一人分の食事が出来上がると彼女はそれを食べ始めた。


 ジリジリジリジーン。ジリジリジリジーン。


 そこに昔懐かしい少女の前世でよく聞いたけたたましいベルの音が鳴り響いた。

 少女は壁に掛けてある鏡に指を向けると”えいぞう”と呟いた。

 少女のその声に反応し鏡に王宮からの兵士がこの離宮に続く丘を集団で登って来るところが映し出された。


「何ごと?」

 少女が食べながらも今度は”おんせい”と呟くと見ていた鏡からガチャガチャガチャという騒音と低い声が聞こえだした。


「おい、まだなのか?」

 脂ぎった小太りの男が馬車から顔を出して隣にいる兵士に怒鳴っている。

「この丘を登った先になります。」

 兵士の説明に脂ぎった小太りの男は乱暴な手で馬車の窓を閉めた。


「誰?」

 少女は呟きながら嫌な予感に自分で作った食事を慌てて口に詰め込み始めた。

 そのうち馬と馬車のガチャガチャとした騒音が鏡からではなく近くの道から聞こえて来た。

 少女は食事を終えると食器を片付け、鏡に映っていた画像と音声を消した。

 ちょうど壁にかかっていた鏡から画像と音声が消えた瞬間に離宮の前に馬車と馬が止まった。

 すぐに扉をガンガンと叩く音が聞こえ始めた。


 何もあんなに激しく叩かなくったっていいでしょうに。

 少女が立ち上がって扉を開けようと正面の入り口に向かっていると焦れた人間がいたようで扉を壊して離宮に人が入って来た。


 ちょっと信じられない。

 少女が唖然とした顔で扉の前で立ちつくしていると彼女に気がついた脂ぎった小太りの男とがっしりとした体格の兵士が視線をこちらに向けてきた。


 お互いに目を瞠る。

 先に我に返った少女に睨みつけられた脂ぎった小太りの男が偉そうに彼女に命令をした。

「おい、娘。ナナ様に面会したい。どちらに居られる?」

 少女は離宮の裏を指差した。

 小太りの男は少女に呼んでくるように命令した。

「無理よ。」

「なんだと。」

「だから無理よ。」

 男は無礼な口を聞く少女に手を振り挙げた。

 それにいち早く気がついた体格のいい兵士が脂ぎった小太りの男が振り上げた手をガシッと掴むと彼女を庇うように立ち塞がってくれた。


「おい、私の邪魔をするな。」

 体格が良い兵士は脂ぎった小太りの男の声を無視すると振り上げた手をすぐに離して後ろを振り返るとしゃがみ込んで少女の目の高さまで顔を近づけなんでそんなことを言ったのかと理由を聞いて来た。

 さすがに丁寧な態度をとる兵士に悪いと思ったのか少女はその男についてくるように言うと玄関から離宮の庭を抜け、裏手に広がる場所に兵士と小太りの男を案内した。

 そこには複数の墓が立てられていた。

 少女はそのうちの一際りっぱな墓石の前に二人を案内した。


 そこには”ナナ・アン・アントワープ”そう記されていた。


「馬鹿な。」

 脂ぎった小太りの男は墓の前で呆然とした。

 背の高い兵士は少女になんで亡くなったのかを聞いてきた。少女は大きな溜息を吐くと数年前に起こった襲撃事件について説明した。

「夜中に黒づくめの男たちが押し入って来て、私以外は全員斬り殺されたわ。」

「それでは君がレイ様だね。」

 背の高い男は地面に膝をつくと少女の腕にある腕輪を確認してそう言った。

 ウンザリ顔のレイは嫌そうな顔をしながらも仕方なく頷いた。

 この国の王家に生まれた子は生まれてすぐに王家の血を引いているかどうかを司祭により”呪いの腕輪”を左腕に嵌められ試される。

 もし偽っていればその腕輪が光りすぐにその子供は死んでしまう。

 なので左腕にその王家の腕輪を持つものが王族の証明になるのだ。

 レイも実は襲撃の夜に殺されそうになったが恐怖のせいで目覚めた前世の知識と元々あった魔力で助かった。助かった時、すぐにこの腕輪を外そうとしたがどんなに魔力の高いレイでもこの”王家の呪いの腕輪”は外すことが出来なかったのだ。

 それこそほんと色々試したんだけれど全くダメだった。

 そんなわけでレイは見られた腕輪を恨めしそうな目で思わず睨み付けた。

 これのおかげで彼女は未だにこの国から出られずにいる。


「ではレイ様。王宮にご案内します。」

 背の高い兵士はそういうと違うことを考えていたレイを馬車まで先導した。

 やっと我に返った脂ぎった小太りの男がレイを先導している男の前に割り込むと偉そうな顔で前を歩き出した。

 レイを馬車まで案内すると馬車の傍を警備していた違う兵士に小太りの男は彼女を馬車に乗せるように命令して強引にそこに押し込めた。

 逆らっても無駄だとわかっていたのでレイはおとなしく馬車に乗ると王宮に向かった。

 王宮まで行くのに結構時間がかかると聞いたレイは隣でふんぞり返っている男になんで王宮につられて行かれるのかをダメもとで聞いてみた。

 男は最初黙っていたが何度も聞かれるうちに煩くなったのか王に聞けというと口を噤んでしまった。

 どうやらこの男は本当にそれ以上のことは知らないらしい。

 こんなのを王宮からの使いに寄越すこと自体この国の将来が危ぶまれる。

 ああ早くこの王家の呪いの腕輪を外してこの国から出て行きたい。

 レイはぼんやりと馬車から窓外をみながらそんなことを考えた。

 もっともそのレイの願いは皮肉なことに一月後に叶うことになったのだが・・・。

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