六
私は夏樹の言葉を疑った。
だって私は夏樹を傷つけたのに……そんなことあるはずがない。
きっと、私を慰めようとしてるんだ。
そう思った私は、横に首を振って夏樹に言った。
「ゴメン…でも、そんな慰めいらないよ」
そう言った時、一瞬夏樹の抱きしめていた腕が緩んだ。
その隙をつかって、私はスルリと暖かかった温もりから抜け出した。
そして、夏樹の顔をみると……真剣な顔でだけどとても悲しい顔でジッと私を見ていた。
「……夏樹」
私は、なぜか夏樹の名前を呼んでいた。
だけど、これ以上はもう夏樹にかける言葉が見つからない……わからなかった。
私は、ゆっくりと夏樹に背を向けて歩いた。
二歩、三歩、四歩、五歩……十歩以上歩いても、もう夏樹は追いかけて来ない。
あぁ、やっと諦めたかな?そう安心しなくちゃいけないのに、やっぱり夏樹の側にいたいって思う私は、矛盾してるかな?
その時だった、後ろからいきなり抱きしめられたのは……夏樹が私をまた強く抱きしめてきたのだ。
「…なつ──…」
私は慌てて、夏樹に声をかけようとする。
「慰めとかじゃない!」
しかし、私の声は夏樹の言葉にかき消された。
「…俺は、本気でお前を……カズハが好きなんだ」
「私が、夏樹の側にいちゃいけないの、だから…その気持ちには──…」
「違う!お前の本音が聞きたいんだ」
なんで?なんで夏樹は諦めてくれないの?
私がいたら、また傷つくよ?迷惑もかけちゃうよ?……それでも私、側にいて良いの?
─────夏樹を好きで居ていいの?─────