8
着替えとシャワーを済ませて訓練室へ向かう。
廊下を歩いていくと、訓練室と書かれた扉の前で鋭斗が立っていた。
「おはようございます鋭斗さん。今って誰がいます?」
「ああ、御園か。今は……平野がいるな」
一瞬躊躇うように鋭斗は告げると、扉に視線を向けた。
「訓練か?」
「ええ、まぁ。生くんの能力の分析もまだしてないんですよね?」
「神宮様に聞く限りそうらしいな。……あー、じゃあ丁度良い。瀬良に平野と一緒に基礎訓練をさせてやれ」
「わかりました」
平野。その人物と訓練させられるらしい。「大丈夫か……」と鋭斗が呟く声が聞こえたので首をかしげる。鈴が此方を向いて唸った。
「んー、何て言ったら良いのかな……。直明さん……あ、平野って人のことだよ。あの人は能力が特殊っていうか。そのせいで人見知りするみたいなの」
だから、何かあっても生くんが嫌いな訳じゃないよ。と励まされる。とりあえず、頷いておいた。
「じゃあ、開けるね」
鈴が手に付いている白い腕輪をかざすと、扉がゆっくりと開く。
広い空間の中に、訓練用具だろう機械が陳列していた。硬質な雰囲気を纏ったその施設は、食堂もそうだったのだが、壁全面が鏡のようになっている。一瞬それに疑問が沸くが、別に母さんには関係ないことだろうと考えるのをやめる。
「はぁっ…はぁ……くそ、このポンコツ機械!」
端の方で一人男が機械に怒鳴り散らしていた。ぺち、と弱々しい音を立て機械を殴っているが、機械に何か影響する様子はない。
鋭斗が眉をひそめる。
「おい、平野。ポンコツなのは機械じゃなくてお前だ。俺の機械に不備があるわけないだろう」
「わ、わかってますよ……って、あ、す、すすすす鈴しゃん!?」
鋭斗に弱々しく返答したかと思うと、その男は鈴の方を向いて跳び跳ねた。猫背でマスクをつけた不健康そうな男。この男がどうやら直明らしい。
「直明さん、訓練お疲れさまです」
「ぁ……っす……」
大量の汗を流しながらどもる直明は、せわしなく視線を動かし、しばらくして僕の方を見た。
「あー……?こんな子供いましたっけ……?」
「瀬良生くん。昨日からここの一員になったの。といっても手続きが済んでないから寝泊まりとかも私の部屋なんだけどね」
「鈴さんのっ……!?」
訝しげに此方を見ていたと思えば、鈴が寝泊まりと言ったところで信じられないと言うように睨んできた。
「……よろしく」
お辞儀をして直明を見る。直明は「おまっ……!」と何か言おうとしていたが、一、二回深呼吸すると「よろしく」と小さく言った。