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僕の在り方  作者: ユウ
第1章
7/8

7

暗いところにいた。

「嫌い」

そう言われた。母さんや他の人は、能力がある僕を怖がった。


痛かった。悲しかった。


泣いたら母さんは怒るから、そのうち泣かなくなった。それでも母さんは怒った。

笑ったら母さんは泣くから、笑わないようにした。母さんはもっと泣いた。


能力があるから、母さんは僕が嫌い。


だから、僕は、僕が嫌い。












眩しい。

明るいところ。……なんで僕はここにいるんだっけ。


「ん……」

耳元から声が聞こえる。見ても何もない。

……?

起き上がる。辺りを見回すと、そこは薄桃色の部屋だった。ベットに、机に、勉強道具。監視カメラ。

机の上にある写真は、男と女、それと小さな女の子が二人写っていた。……一人、見覚えがある。昨日話した鈴によく似た小さい女の子。


そうだ。ここは鈴の部屋だ。

そして、さっきの声の主も鈴だ。


だとしたら、何処にいるのだろう。

ベットに手を置こうとすると、ふと柔らかいものに触れた。

「んっ」

何もない空間に感触と声。……ここに鈴がいるんだろうか?

「んぅ……んん……?って、きゃあ!?」

どん、と衝撃で僕はベットから落ちた。

「あっ、ご、ごめん!でもえっと、その、寝てるときにそういうのは……!って、いやいや……!寝てなくてもダメだよ!!」

声がする。僕は首をかしげて何もない空間を見た。

「あれ……?…………あっ!そっかそっか。ちょっとまってね……」

声のする空間に歪みが生じる。じっとそこを見ていると、昨日となんら変わりない姿の鈴がそこに現れた。わずかに頬を染めた鈴は「ごめんね」と言って僕のことを見てくる。


「え、えーと。驚いた?」

こくり、頷く。不思議だ、何もないところから人が現れるのは、聞いたことがない。


「私の能力なの、これ。透明になる能力って言えばいいかな。寝てる時だと、勝手に発動しちゃうことがあって」

納得した。

他の能力を見るのは初めてで、何故か体のどこかが痛んだ。ぐっと眉を寄せる。

それを鈴はお腹が空いてると認識したのか、「すぐ朝ご飯作るね」と部屋の奥にある台所へ向かってしまった。ぼうっと、何かを言おうとその後ろ姿を見ていたけれど、何も浮かんでこないので口を閉じた。


狐色のトーストにチーズ。その上に赤いトマトとベーコン。

「簡単なものだけど」と鈴は言っていたが、おいしかったのでおいしいと言った。鈴は顔をほころばせて「良かった」と言っていた。


「今日は生くんに機関の施設を案内しようと思ってるんだ。この前行った食堂以外にも、訓練室、図書館、大浴場なんかがあるの。他にも能力者それぞれに割り振られた施設もあるし……生くんもそのうちもらえるんじゃないかな」

楽しそうに話す鈴の言葉に、体が強張るのがわかった。

「……訓練室って」

「ん?」

「訓練室って、能力の?」

ぱちぱちと鈴が瞬きをする。僕がどんな顔をしているかはわからないが、僕の顔を見て鈴が不思議そうにしているのはわかった。

突然、鈴の指が僕の頬に触れる。

「大丈夫」

ぴく、と肩が揺れる。鈴は僕をまっすぐ見据えていた。


怖い。

口を開こうとして、脳裏に過ったのは母さんだった。苦しそうな、母さん。

能力があるから。能力のせいで。

そんなことを考えていたら、優しく笑いかけられた。


「怖くないよ」

大丈夫、大丈夫と背中を優しく叩かれる。規則的な振動に、何かがじわじわと染み渡っていく気がした。

嫌な感覚は、もうない。


「行こっか」

「……う、ん」  


口から出た言葉は、掠れた音で空気を振動させるだけだった。



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