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廊下は窓すらない、鉄で囲まれた無機質な廊下が延々と伸びていた。反響する足音に段々不安になる。
一刻も早く母さんを見つけなければいけない、こんなところにいる場合ではないのだ。もしかしたら、この男が母さんに何かしたかもしれない。そう考えて男の背中を睨んだ。
男の歩幅に合わせ少し早足で廊下を歩いていると、大きな扉の前に出た。
「いいか?少しでも能力を使ったらその時はお前の頭を思いっきしぶん殴るからな。わかったかボクちゃん」
そう言って男は僕の頭上に拳を上げる。
「…………」
「……はぁ」
無言でその拳を見つめていると、男は溜め息をつき手を下げた。
……?さっきまで笑っていたのに、どうして急に溜め息をついたのだろう。
「っとに…いまいち解ってなさそうだな。まぁいいか」
男の指が扉の横のタッチパネルに向かう。何かを入力すると、重苦しい機械音がしてゆっくりと扉が開いた。
男が入っていくのを目で追う。「お前も入れ」と急かされ扉に足を踏み入れると、ポロシャツの男のものとは違う声が聞こえた。
「待ってたよ……瀬良生くん」
扉の奥には二人の男女が立っていた。椅子に座っている物腰の柔らかそうなスーツの男、その後ろにはヘルメットのようなものを被った女が微笑んでいる。さっき声を発したのは座っているスーツの男らしい。
スーツの男はゆっくりと立ち上がり、此方に歩いてくる。
目の前まで近付いてくると、屈んで目を合わせてきた。
優しそうに細められた目は、酷く冷めて此方を窺っているようでもある。
目を逸らす気はしなかった。
「…君の望みは?どうしてこんなことを?君はなんなんだ?……教えてくれるだろう」
何かをされている感じはしなかった。至って普通に、しかし確信めいてスーツの男は僕に尋ねてきた。
考える、が、結論はすぐに出る。
……僕は、ぼくのすべては、
「母さんだ」
スーツの男は一瞬目を見開いた。