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目を開けると、何も見えなかった。
「どこ」
何の変哲もない"声"が反響する。
返事はない。誰もいない。
「目ぇ覚めたか?」
扉を開ける音がすると共に、光が視界を埋め尽くし、無防備な目に焼き付いた。眉をしかめながら光の先を見つめると、体格の良いポロシャツの男が立っていた。
「誰?」
男は驚いたように目を瞬かせ、「制御できるのか」と全く返事になっていない言葉を吐いた。不快になった。僕はさっきまで母さんと話していたはずだ。それがなぜか暗闇の中にいて、知らない男が現れた。
「母さんはどこ?」
反応がない。じっと此方を見つめるだけ。
『母さんは?』
「っ……は、自由に出すこともで出来んの。優秀だねぇ」
おかしい。
目を見開いた僕を見て、男は「ふーん」と頷いている。
どうしてだろう。なぜ通じないのだろう。わからない。
「そういう"能力"?」
「……ん?ああ、違うよ。俺のはただの"体質"だからな」
……体質。能力がきかない?
「まあそれはさておき、俺が誰かって話だ。いや、正確には俺達か?」
俺達。
それが意味するのは。
「集団?」
男は口角を上げる。
「おっしいなぁ。むしろ悪の集団と敵対する、言ってみりゃ正義の味方さ」
仕事の内容はそうだなぁ、と男は顎に手をあてて、反応を見るように此方を見た。
「お前みたいな悪い能力者を処分するとか」
「っ……!」
驚きに何かから落下する。腰の痛みにうめきながら立ち上がると、背後に簡易ベッドが置いてあった。どうやら僕はここに寝かされていたらしい。あたりはそれ以外に何もなく、見ようによっては牢獄のようでもある。
処分--その言葉に、状況が少なくとも良くはないのだと理解する。
男。声は通じない。
「んじゃ、ちょっくら着いてきてもらおうか?能力がなきゃただのひ弱なガキだ、抵抗したって無駄だぞ?」
そう言うと男は背を向けて歩きだした。どうしたらいいかわからない。
「……着いてきやすいように殴ってやろうか」
仕方ないので大人しく男の後を追った。