ドクターフィッシュ(R13)
旅行である施設を訪ねた俺の目に、体験コーナーと書かれた看板が目に飛び込んできた。
体験コーナー? なんじゃらほいほい? 一体何を体験するというんだい?
俺はその看板をざっと目を走らせた。
「へえ~、ドクターフィッシュかー」
看板には、説明文が記されており、ご自由に足を入れて下さいと書かれていた。さらに説明文にはドクターフィッシュが体の角質を食べてくれて、お肌がツルツルモチモチもち肌お嬢さんに蘇ると、そこには書かれていた。
俺は男で実はもう、70歳だったが、少し前までちょい悪オヤジと言われ、おにゃにょこには結構もてていた。最近ではあまりもてなくなったが、まだ俺は現役バリバリで、毎日スッポンを食べて、夜はスッポンポンなっておにゃにょこと戯れている。
まだまだ、俺は現役でいたいし、少しでも若くありたい。そう思っていた俺には、このお肌がツルツルモチモチという文章は文字自体が手を招いているようなまるで魔性の誘惑文字に思えた。
ああ~、あああ~、ああああ~、ああ。
気づけば、俺はドクターフィッシュの水槽の中に両足をどっぷりと浸していた。
だが、待てども待てども、フィッシュは来ない。
「どうなっているんだこれは!」
俺はまるでフィッシィング詐欺にでもあったような気分だった。フィッシュだけにね!
だが、待つこと数分……あ、来た。
魚がようやく近づいて来た。
でもなんかでかくね?
俺はそう思った。しかもヒレがあるし。
ヒレ? ヒレ? まさかな。はらほろヒレはれ。俺の思考がその考えを否定していた。いやヒレっていっても、持っている海洋生物色々いるしな。イルカとかイルカとかイルカとか。魚君とか……。
「ギョギョギョ!!」
でも近づいて来た生物の顔を水越しに透かして見るとそれはやっぱり、あれで。そうみんな大好きホオジロザメで。でも俺はいや、僕は、いやぼくちんはやっぱり、そんなことが現実には起こりえないと、まだ頭の隅では考えていて。でもそれと同時に、今までの思い出は走馬灯のように蘇って来ていて、そのほとんどの記憶がおにゃのことの、記憶ばかりで。結局、俺はツルツルモチモチもち肌になれるという、文面の魔力からは抜け出せずに、その場から逃げ出すことが出来ずに、両足をサメに食べられました。
その後、両足を失いながらも、なんとか一命をとりとめることが出来た。
あの施設を管理していたのは、殺人者で、ペットのホオジロザメの餌代を浮かし、餌をやる手間を省く為に、ドクターフィッシュという嘘の文面で餌の人間をおびき寄せていたみたいだ。最近サメの管理者の殺人者が捕まった時、ニュースで追加情報としてそう言っていた。
俺はと言うと、その後、人間ドクターフィッシュという会社を立ち上げた。
従業員が、魚の役なって水槽に潜り、お客の人間が水槽に足を突っ込むと、従業員、つまり俺が客の足の角質を取る為に水槽の中の客の足を舐め、優しく齧るというものだ。
まだ会社は立ち上げたばかりで、従業員は社長である俺一人しかおらず、お客もまだほとんど来ないが、これから知恵を絞り、会社を大きくしていければな、と思っている。