来たるべき日に為に備えて
だいぶ遅いですけど明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
1912年 大正ニ年 12月
陸軍中央幼年学校「予科」に入学して三ヶ月がたった。
最初は多少の緊張があったが今はもう無いし軍事学を学ぶのはとても楽しい。
しかし悩んでいることがある。
それは………
「この場合はこうすればいいだろう?」
「いや、こういう場合ならこうだ!」
「それならこっちの方がいいだろう!?」
「………殿下はどうお考えですか?」
「………側面から回り込んで包囲殲滅」
そう呟くように言うと……
『オオォォォ……!』
「さすが殿下ですな!」
「いや、全くだ!」
いつもこうなる……俺が作った簡単な兵棋演習をやったら俺に意見を聞いてくる……俺は審判なのに何度言ってもやめない……
自分たちで考えて決断しろよ……!
将来、お前らは栄えある帝国陸軍の士官になるんだぞ!
「しかし殿下、やはり戦車は強力ですね」
「そうだろうな、近い将来、騎兵の代わりになる存在だからな」
「自分は航空機の方が良いと思います」
「戦車も航空機も使い方を間違わなければ強力な兵器なる。間違わなければな……」
この兵棋演習ではまだ出てきていない兵器……戦車と航空機を加えてやっている。
戦車は軽戦車と重戦車に、航空機は戦闘機と爆撃機に分けて加えている。
みんな最初は理解できていなかったが俺が戦車、航空機の使い方を見せるとすぐに理解したのだが……!
「お前らは何で真正面から挑もうとするんだ……?」
「突撃こそ我が軍の伝統ではないのですか?」
「少しは疑問に思え……戦車はまだしも歩兵まで敵の最も分厚いところに突撃したら被害が大きくなるだろう……」
「しかし……」
「伝統で敵に勝てる訳が無いだろう?勝てたらそんな楽な戦争はないな……よし!もう一度最初からだ!むやみに突撃するなよ?頭をしっかり使え!」
『ハッ!』
まあ13歳の子供に言ったって分からないか……
幼年学校の朝は早い。
オレは起床ラッパが鳴る前に軍服へ着替え、洗面台に向かい顔を洗い、歯を磨いた。
それが終わると中庭に向かい他の生徒が来るのを待った。
ちょうど中庭に着いたところで起床ラッパが鳴り響き、学校全体が慌ただしく動き始めた。
「………遅いな」
「殿下が速すぎるのです……」
後ろを向くと校長の松浦寛威歩兵大佐がいた。
「おはようございます。大佐殿」
「……できれば校長と呼んでほいいのですが」
松浦は苦笑いしながらも義仁の挨拶に答えた。
「どうですか殿下?ここでの生活には慣れましたか?」
「はい、慣れました。しかしもっと軍事学を増やして欲しいです」
松浦はまた苦笑いをしながら答えた。
「殿下は優秀過ぎるのですよ。他の生徒は授業に付いていくことで精一杯なのにたった三ヶ月で授業内容を全て理解し、兵棋演習を御作りになるとは誰も想像がつきませんよ……」
「簡単でしたから」
「そ、そうですか……」
さらに苦笑いをする松浦だった。
「しかし殿下が御作りになった兵棋演習のなかに見慣れない物がありましたが……あれはなんなのですか?」
「あと四、五年すればイギリスで開発される戦車という兵器と飛行機に機銃や爆弾を搭載したものです。いずれ戦場の主役になる兵器ですよ」
松浦の質問に義仁はしれっと答えたが松浦は、ますます苦笑いをした。
「……殿下は何でそんなことが分かるのですか?」
「知っているからです。これから起きることを」
「…………そ、そうですか……」
「まあいずれ分かりますよ」
松浦はそれ以上何も言わなくなった。
しばらく沈黙が続いたが義仁が何かを思い出し松浦に聞いた。
「そう言えば手紙はしっかり送っていただけましたか?」
「はいちゃんと届けました。しかしそれがどうかしたのですが?」
「いえ、父上がちゃんと読んでいるかなと思いまして……」
有栖川宮邸
威仁は頭を抱えていた。
原因は威仁の目の前に置かれてある一通の手紙だ。
差出人は威仁が愛してやまない自慢の息子である義仁からだった。
義仁からの手紙が来たときは威仁は嬉しすぎて涙を流しそうになったぐらいだった。三ヶ月もの間、手紙一通もよこさなかった義仁が手紙を送ってきた。父親なら当然嬉しかったのだろう。
しかし今は別の意味で泣きそうになっていた。
「何なんだこの内容は……」
手紙の内容があまりにも子供らしくなく、政治的なことしか書いていなかったのである。
親としては、「友達ができた」とか「先生に褒められた」とか「父上がいなくて寂しい」など身近な話を期待していた。結果は全く違った。
手紙にはこう書いてあった。
「父上、私は元気にやっております。勉学も簡単すぎてつらくなってきました。生徒たちはみな真面目ですがまだ幼いように感じます。
話はここからが本題です。父上にやっていただきたいことがあるのです。
簡単に言えば日本を近代化したいので手伝ってください。私はまだ子供なので父上に頼る事しかできないのでどうかよろしくお願いいたします。
有栖川宮義仁より
追伸 別紙にやってほしいことが書いています。頑張ってください」
これを読み終わったあと威仁は息子に頼られていると純粋に喜んだ。しかし意気揚々と別紙を読み始めるとだんだん顔が青くなっていくことが威仁自身にも分かるぐらいに無理難題が書かれていた。
その一 政府主導による基幹産業の重工業化支援・・・
自動車産業の振興を促し日本の技術力の底上げを図る。
その二 労働者の労働条件改善・・・
第一に八時間労働制の導入。第二に最低賃金制の導入。第三に労働組合の結成を許可する。第四にそれらを達成するための法整備を行う。
その三 国内のインフラ整備・・・
公共事業と並行してインフラ整備を行い失業者を吸収しながら道路整備を行いアスファルト、コンクリートの生産基盤拡大を望む。
その四 発電所の整備・・・電気がなければ産業は動かない。これも公共事業の一環として整備を行う。
その五 農業生産効率の向上ならびに機械化・・・
自動車産業はまず農業機械、トラクターの生産、輸送するためのトラックの生産を行う。政府主導で促し農家に貸し出すという形で使用する。
その六 大量生産の技術獲得・・・
ライン生産方式や工業機械の大規模導入を行い、素人でもまともな物を作れるようにする。政府主導で支援をする。
その七 鉄道網整備・・・輸送の効率化、失業者対策、公共事業の一環として行う。
その八 冶金と鋼鉄生産・・・これが出来なければ軍艦も戦車もできない。この技術をあげるには自動車産業と鉄道車両産業の需要を増やさなければならない。
その九 男女平等の教育機会、雇用の実現
これらすべてができて初めて日本は近代化されたことになるし出来なければ欧米列強、特にアメリカ合衆国と対立、開戦した際には必ず日本が敗北する。
「こんなの私一人では無理だよ……」
このようなことがあり威仁は頭を抱えていた。
「私は海軍軍人だしあまり政治家に知り合いなども居ない……というかこんなにしないと日本は負けてしまうのか……しかしどうしたものか………」
威仁があーでもないこーでもないと悩んでいると、ふと大事なこと思い出した。
「明日、陛下に来るように呼ばれていたんだ………陛下に相談してみるか……?いやいやそんな恐れ多いことができるわけがない……」
皇居
「威仁殿、よく来てくれたね。それから義仁くんは元気かい?」
「陛下、今日はどのような要件でありましょうか?あと義仁は元気でございます」
「そうか、元気か!それは良かった!私も心配だったのだ……義仁くんには幼年学校は、まだ早いと思ったのだが……元気か……それは良かった。裕仁が寂しがっていたからな……友達が居なくなって悲しいと言っていたよ。それでも手紙が送られてくるからあまり寂しそうには見えなかったが……」
しばらく陛下による裕仁殿下のお話(自慢話)を20分ほど聞かされた威仁は、そろそろ本題の話に入るように切り出した。
「……陛下、そろそろ私を呼んだ理由を話していただけないでしょうか?」
「あぁ、そうだったね。実は……」
陛下は、息子の話をしていた時のような笑顔が無くなり真剣な表情となりながら言った。
「実は……威仁殿に内大臣となって朕を補佐していただきたい」
「わ、私が内大臣ですか?」
「朕は父上のように優秀でもないし人を引き付ける力もない………朕は威仁殿から多くの事を学んだ。だからこれからも威仁殿から多くの事を学びたい、そしてこの国を豊かにしたい………僕に力を貸してはくれないか?」
威仁はこの時考えた。
私が陛下の補佐……身に余る光栄なことだが果たしてその職務を全うできるのか?
……陛下の補佐………あれ?政治にすごく関わることになる?
いやまて!内大臣だから陛下の補佐と詔勅や勅書その他宮廷の文書に関する事務を所管などをするはず……あと国民より陛下に奉呈する請願を取り継いだりもしたはず……!
…………すごく政治に関わるな……
まさか義仁はこの事を予想していたのか!?だから昨日手紙が届いたのか!?そうなのか義仁!?そうなんだな義仁!
(違います。ただの偶然です。)
よしわかった!これも陛下と帝国と義仁の為だ!
「陛下、微力ながらこの威仁、陛下と帝国を支えてご覧にいれます!」
それを聞くと陛下は、満面の笑みとなった。
「そうか!やってくれるか!ありがとう威仁殿!」
その日から威仁は内大臣となった。
ガルパン劇場版最高だったぜ!4DXも見に行くぜ!
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