表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

父上の仕事

大変長らくお待たせしました!本当に申し訳ありません!こんな長い期間待たせてしまい申し訳ありません!

楽しんでいただけたら幸いです。ではどうぞ!

 1913年 大正ニ年 4月



 私、有栖川宮威仁は、内大臣である。

 そのため内大臣府で仕事を行っている。

 内大臣といっても大したものではない内大臣府でなにか起きたら責任を取る係りのようなものだ。最も重要なのは陛下の相談役ということだこれは責任重大だ。


 内大臣府と言っても私も含めて僅か11人の小さな組織だ。

 事務処理は基本的に秘書官長の矢口君が殆どやってくれて私の所まで仕事が回ってこない。たまに大事な手続きなどは来るが……

 秘書官は三人いるが彼らも皆優秀で君の事務処理を手伝っている。

………でも矢口君一人と彼ら三人の処理能力がほぼ同じなんだが………矢口君って本当に凄いな……

 庶務を担当する属が六人いる。やはり彼らも優秀でお互いがお互いをカバーしながら仕事をこなしている。


 では私は普段何をしているかと言うと………





「矢口君、東北からのアンケートはこれだけかい?」

「いえ、それは青森県だけなので他の東北地方からのアンケートは午後には届くかと」

「そうか…ありがとう」


 私の仕事は、各都道府県から届くアンケートの調査を纏めることだ。

 このアンケートの正式名称は『意見・要望のための具申箱』と言うが長いのでアンケートと呼んでいる。江戸幕府が設置した目安場のようなものである。

 なぜこんなアンケートをしているのかと言うと、義仁からのお願いを実行するためだ。義仁のお願い事は、私一人ではできない。自動車産業を発展させるにも、労働条件を改善するにしても、農業効率を上げるにしても、私一人ではできない。

 私が内閣や国会に言ったとしても理解されないし反対されるだろう。特に男女平等は苛烈に反対されることは予想できる。

 しかしやらねばならない。

 ではどうするか?

 国民の意見ならば国会とて無視できまい。

 これで行こう!


 だから内閣に『意見書・要望のための具申箱』の設置を要望した。最初は渋られていたが程なくして設置が認められた。

 設置されてから五ヶ月ほどたったが毎日意見書が届く。特に多かった意見は……


『工場の賃金を上げてほしい』

『仕事の休みが少ないので増やしてほしい』

『農作業での稼ぎが少ない』

『農作業を楽にする物がほしい』

『普通選挙にしてほしい』

『女性が政治に参加できるようにしてほしい』

『大きな街まで行くのがとても大変』


 などなど………その他多くの意見要望が寄せられていた。


「やはり東北地方からは農業に関する意見が多いな……」

「主要な産業が農業だけですからね。こういう意見が多く届くと日本の近代化もまだまだだと実感します」

「そうだね……だから我々が何とかしなければならないからね。素直な意見ばかりで私は嬉しいよ」


 そう言いながら意見を纏めていく作業を続けた。









 一週間後、威仁はある会議を行うために向かっていた。


 帝都東京 麹町 内閣鉄道院庁舎


 小会議室


 小さな会議室に威仁を含め四人の男たちがテーブルを囲んで座っていた。


「これから定例会議を行います。本日もよろしくお願いします」

「「「よろしくお願いいたします」」」


 威仁が会議の開催を宣言し挨拶すると、当然三人は深々と頭を下げながら挨拶仕返した。


「では、まずはこちらをご覧ください」


 そう言うと威仁は鞄から数枚のプリントを人数分だし、配った。

 そして各々、そのプリントに記載されていることを見てそれぞれ違う反応をした。


「これらのプリントは今月分の『意見・要望の具申箱』に記載されたことを纏めた物です。上から樺太、北海道、東北、北陸、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、と言う順番です」


 そう説明を受けると三人はため息を吐いた。そして一人の男が口を開いた。


「都市と地方との差が激しすぎますな……。特に東北地方が不味いように感じます」


 そう発言したのは、農商務大臣を務めている山本達雄だった。山本は続けて発言をした。


「私も農村の状況は部下からの報告を受けてはいますが、ここまで困窮しているとは……」

「それに鉄道に対しての意見も多いように見えます」


 山本の次に発言したのは、鉄道院総裁を務める床次竹二郎。


「鉄道院でも地方路線拡大の方針を目指していますが、なにぶん院内にも反対する者がおりましてもう少し時間がかかると思われます」

「そうですか……。元田大臣はどう思われますか?」


 そう威仁に振られたのは、逓信大臣の元田肇であった。


「逓信省としましては、やはり発電所を増やし、電力を確保していくことで工業の活性化させ、地方にも産業を生み出せば解決できると考えます」

「なるほど……。労働者の賃金に関しては皆さんどう思われますか?」


 威仁の質問に三人は渋い顔になったが、最初に答えを出したのは山本だった。


「農商務省としては是非とも殿下が仰られる八時間労働と最低賃金制の導入は賛成です。しかし……」


 口がごもった山本に変わり元田が引き継いだ。


「財界の激しい抵抗に遭うのは明白です」

「うむ……」


 そう言われ威仁もまた渋い顔になってしまった。


「労働者の健康や士気を考えば、是非とも法案として通したいですね」

「そうですな」

「インフラ整備も行わなければなりません。地方と都市を繋げて需要拡大を促進しませんと」

「やはり地方路線拡大を行わなければ……」


 それから暫くは工業とインフラ整備の話が行われ、次の課題に移った。


「では農業についてですが、まず水稲につきましては北海道農事試験場、新潟県農事試験場、宮城県立農事試験場を中心に寒冷地用水稲の品種開発を進めていますが、まだ目途は立っておりません。しかし目標として十年以内の開発を目指しております。次に小麦につきましても北海道、新潟、宮城に加え岩手県農事試験場の四つの試験場にて雨風に耐え倒れにくく、寒さに強い品種を開発中ですがこれも、時間がかかると思われます」


 こうして幾つかの課題を話した後、最後の課題へと移った。


「では今日、最後の課題について話をしたいと思います。……選挙権についてですが、早期に普通選挙を求める声が多くありました。また女性からも参政権を求める声がありました」


 威仁がそう言うと、三人は今日一番の難しい表情となった。それを見て威仁は自分の意見を述べた。


「私は普通選挙を実施すべきだと思います。また男女平等の教育機会も近代化には必要です」


 ハッキリとした口調でそう述べた威仁、三人は難しい表情のまま各々の答えを述べた。


「確かに普通選挙はいずれ実施しなければなりませんが……」

「まだ時期が早いのではないでしょうか……?」

「女性も参政権とは……世界のどの列強もしていませんぞ」


 この時代で男子の普通選挙が実施ししている国は、フランス共和国、ドイツ帝国、アメリカ合衆国、ブルガリア王国などの少数であり、更に女性に参政権を与えている国は1913年の時点で一カ国も存在しない。

そんな中で日本だけが男子の普通選挙は未だしも、女性に参政権を与えるというのはどうなのか?と言うのが三人の考えだ。

 威仁にも困難であるし、時期が早すぎるのも分かっていたが、息子の義仁に、『出来るだけ早期に完全普通選挙を』と頼まれているので一歩も引く気はなかった。


「では我が帝国が世界で初めて女性にも参政権を与え、男女平等を実施した国家となれば良いのです!いつまでも列強の顔色を伺い、真似をしていても黄色い猿と馬鹿にされるだけですぞ!」

「し、しかし殿下……」

「我が帝国は亜細亜で唯一の近代化した国家であり帝国なのです。それ故に世界の植民地に希望を与える存在であり続けなければなりません!ならればならんのです!」

「で、殿下落ち着いてください!」


 山本が叫ぶと、威仁はやっと自分が興奮していることに気がつき、咳払いをした後謝罪した。


「申し訳ない。少し興奮していました」

「は、はあ……」

「以前から気になっていたのですが殿下、何故そこまでアジアや植民地に拘るのでしょうか?」


 床次の疑問を威仁は、少し嬉しそうな表情になりながらも答えた。


「実は……息子の影響でして」

「義仁殿下が?」

「ええ。息子は幼い頃から…今も幼いですが、昔から全植民地解放と大東亜共栄圏設立を目指していまして……恥ずかしい話ですが私よりも義仁の方が帝国の未来を見据え、帝国と陛下の事を第一に考え行動しております。そんな息子の姿を見ていると大人である自分にも何か出来ることはないかと、行動していましたらいつの間にか息子に近い考え方を持つようになっておりました」


 そう言うと威仁は笑ったが、三人には気になる単語が出て来ていた。


「殿下、大東亜共栄圏とは、一体?」

「義仁の話によれば、欧米諸国の植民地支配から東アジア・東南アジアを解放し、東アジア・東南アジアに日本を盟主とした共存共栄、相互協力・独立尊重の新たな国際秩序建設を目指した構想……と言っておりました」


 威仁が説明すると三人には新たな疑問が浮かんだ。

 なぜ十四歳なったばかりの子供がそんな構想を考えれるのか?幾ら幼い頃から神童と称えられていたとしても、政治思想を考えれるのか?

 そのような疑問が浮かんではいたが威仁に聞くのはやめた。

 何故なら……

 


「それでですね最近、義仁から送られてくる手紙が学校の事じゃなくてそういうお願い事しか書いていないんですよ!いや確かに、父親として頼られているのは嬉しいですよ?嬉しいですけど、まだ義仁は十四歳になったばかりですし、もっとこう……『学校で先生に褒められた!』とか『友達がいっぱいできた!』とかそういう手紙が欲しいわけでもう少し年相応の手紙を書いてほしいです。でもそういう他の子供たちとは違うところも義仁の自慢できる所だったりしますし、あとそれから!」


 威仁が再び興奮、もとい暴走していたからだ。息子の事になると大体の確率で自慢話を始め会議が中断してしまう。

 今回も中断してしまい、三人はとりあえず、まず男子の普通選挙を目指すことが決めた。








 これが義仁の父、有栖川宮威仁の今の仕事である。








ご意見ご批判ご感想などお待ちしております。

本当に長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

自分の好きなことばかりやっていたらこんなに遅れてしまいました。申し訳ありません。

また遅れてしまうかもしれませんが、首を長くしてお待ちいただけたら幸いです。

これからもよろしくお願いします。


いつの間にやらブックマーク登録件数が300を超えておりました。こんな駄文だらけの小説がまさかここまで読まれるなんて始めたころは夢にも思いませんでした。

本当に皆さまありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ