第三夜
わたしは、こんな夢を見ました
夢の中のわたしは、多分男の子でした
夕暮れに沈む森の中を、夢の中のわたしは一生懸命走ります
かくれんぼかな、鬼ごっこかな
息も絶え絶えにしながら走る夢の中のわたし
その後ろから来るのはお友達?
いいえ、違います
それは、蜘蛛のような何かでした
蜘蛛の脚と体を持つ、大きなお化けが追ってきているのでした
夢の中のわたしは一生懸命走ります
夕暮れが森を呑み込む前に、家に帰らないと
ふ、と足を止めました
そこは、森の奥にある大樹の広場でした
大樹には果実のように見知った顔がぶら下がっていて、枝はバラバラにされた腕 足は根のように張り巡らされていました
夕暮れが滴る鮮血で、夕焼けは血にまみれた首のよう
母親、父親、お姉ちゃん、犬、祖母、親友、今朝すれ違った人
誰にでも見える果実は、夢の中のわたしに笑いかけます
げらげらげら、げらげらげら
けたけたけた、けたけたけた
歯茎を剥き出しに、目を見開いて
振り向くと、そこには蜘蛛が居ました
そして夢の中のわたしは理解しました
“君は僕なんだね”
「グロいよ」
「グロいね」
「夢独特のグロさってあるよな、意味の分からない感じが余計に怖さのレベルを上げるっていうか」
「そうかもー」
弥宵ちゃんの話は日に日にホラー色が強くなっている気がする
それに、俺は何か違和感を感じ始めている
昨日病院で聞いた噂話と、彼女の夢の話がクロスしていたからだ
唯の偶然だと信じたい、夢は夢だ
現実にあるわけ無いのだ
俺はそう言い聞かせる
「夢よ」
「どうしたんだい?」
「ユメは夢よ、それは私の夢」
さて、今日もバイトです
苦学生は辛いですね
今日のバイトは森林公園の清掃です
「そういや、そろそろ慰霊碑の掃除もしないとな」
「慰霊碑ッスか?」
隣に座っていた先輩清掃員のおじさんが頷きました
「あぁ、この森のずーっと奥にな、大樹の広場ってのがあるんだ」
……、この話は、聞いたことがある
「もしかして、そこの大樹に首でもぶら下がってたり?」
違う、違う、否定してくれ
これは、この話は、“ユメ”なんだから
「なんだ知ってるじゃねぇか、いやーでも怖えよなぁ、枝に沢山の首がぶら下がってんだって言うんだからよ」
「……、は、犯人は捕まってないんですか?」
「確か今でも捕まってないんじゃなかったかな、でも一番やり切れないのは殺された家族の息子さんだよな、大樹の下で生きて発見されたのはいいけど、天涯孤独になっちまったんだから」
蜘蛛が大好きな男の子だった、って聞いたことがある
先輩の声は、俺の耳には入らなかった