第一夜
わたしはこんな夢を見ました
その日わたしは学校が休みで、お昼寝をしようとしていたんです
クーラーの下でゆっくりと、掛け布団を被ってね
両親は基本的に出払っているので、もちろん鍵を掛けて
蝉が鳴いていて、少し騒がしくて、でも夏を感じる素敵な昼下がり
バイトが忙しくて、余り夜眠れなかったこともあり、わたしの目蓋は五分と待たずに下がっていきました
お休みなさい
考えてみれば、夢の中でも眠るなんて中々珍しいですよね
でも夢の中のわたしはそんな事を気にせず眠り続けます
それもそうです、夢の中のわたしにとって夢の中こそ現実なんですから
外が、少しづつ赤色を帯びていきます
夢の中のわたしは起きる様子はありません
その時、扉が開きました
両親ではありません、他の誰でもありません
それは、[黒い塊]でした
バイト先で見るコールタールよりも黒くて、雨が降った次の日のドブよりも底が見えない、夜の闇
それが人の形をとって、男の手を形作って、わたしの顔に触れました
骨格なんて存在しない不安定な手、でも、感じるのは不快な無骨さ
あの男のように
その黒い塊はわたしの口の中に手を突っ込むと、そのままわたしの身体の中に入り込んでいきました
「そこで、わたしの目は醒めたの」
「……、なんだか不気味だね」
弥宵ちゃんは笑いながら席を立ちました
「話せてすっきりした! ねぇ、お兄さん!また来てくれる?」
俺は手帳を開き、この一週間の予定を確認しました
不思議なことに、シフトの関係で今日と同じ時間に空き時間が出来ています
「いいよ、また明日、この時間に」
俺がそう言うと、彼女は力強く頷いて去って行きました
さて、俺もバイトだ
その日のバイトは、工場の清掃でした
沢山のゴミを片付け、俺が目にしたものは、真っ黒いコールタールでした