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第二話 バカしか行かない場所へ

書き直すので一旦完結扱いにします

「まあ親分ならなんとかできそうだけどさあ。女の子さらって、そのあとはどーすんの。アジトの場所が人に知れたらみんなが危ないし、ここでは保護できないよ?」


 みんながポカンと俺を見るなかで、チャーだけが苦言を呈した。

 おちゃらけているけれど、こいつが一番しっかりしている。


 ちなみにギルドに人を匿う設備はあるといえばあるのだが、命を狙われている人や高貴な身分の人を保護することを目的としたものだし、ギルドの存在を知られないように色々と指導がいきわたった者だけが世話にあたるので部屋数も少ない。


 おそらく今回は受け付けてもらえないだろう。


 「おなご攫ったはいいけどどこ連れて行きゃいいかわかんなーい」とか言ってギルドに相談しに行ったらしこたま怒られるに違いない。


「近くに小さな教会があっただろ? あそこに寄付金(へそくり)と一緒に預けようと思う。あそこは事情ある人をよく引き取っているところだから、女の子を家に返す手配だけギルドに頼んで身柄は教会でいいんじゃないかな」


 山の麓には、山奥に飛ばされる転移罠がある。体力のない子分たちでもアジトの近くまで簡単に行けるものだ。


 罠なのだが、行き先が決まっているし便利なので利用している。人にはあまり知られていないし、うっかり罠にはまっても、山側にある下山用の転移罠を見つけられないと簡単には山を降りられない。


 教会は、その罠から少し歩いたところにある。


 人里から離れたちっぽけな教会だが、悪人にも救済を与える神を信仰しているので、教会自体に悪さしなければ盗賊でも参拝できるという。


 悪さしたら神父に説教(物理)をくらうけど。


 神父への畏怖からか、教会は人気がなく狙いやすそうな場所にあるというのに平和だ。


 あそこを狙うやつはバカだけだという話が広まるくらいである。


 悪さをするつもりがなくてもあまり近寄りたくないところだが、行き場のない人を受け入れるには絶好の場所だ。


 チャーがちょっと渋い顔をしているのは、あそこにあまり関わりたくないからだろう。


「あー、あそこかあ。まあ引き取ってもらえるんなら……。あ、交渉は親分が自分で行ってね! 言いだしっぺだし。それだけ守ってくれるならいいよ」


 チャーはまだ思案げな表情ではあったが、一応の承諾は得られた。


「よし。じゃあこれから教会に行って――」


 ――ガッチョン。


「たっだいまー!」


 エレベータの到着音と共に、コブがやってきた。


「おお、遅かったなコブ。今仕事の相談をしてたとこなんだ」


「おう。それより聞いてよ! 臨時収入だぜーい!」


 椅子に座ったコブの顔だけがテーブルの上にちょこんと出ている。得意満面の笑みで俺たちの注目を集め、おっほんと咳払いをした。


 コブが右手を振り上げ、人差し指を横なぎに払う。

 空間から切れ目が現れ、めくれた中に銀色に光るものが見えた。空間の穴はアイテムボックスの魔法だ。物をろくに持ち運べないこの世界の人々が特別重宝するのがこの魔法と転移魔法である。十人に一人使い手がいるくらいのこの便利な魔法の使い手は、俺たちのなかではコブだけだ。


「ふっふーん。見ろよ見ろよこれ! この輝き! すっげーだろ!」


「わーお」


「きれいっすね~!」


「うん」


 子分たちと一緒に、宝の山に感嘆する。


 アイテムボックスからガラガラと取り出したのはきらめく銀の燭台やフォーク、真鍮のランタンなど意匠に凝った品々だった。古めかしいが大切に手入れされているのがうかがえ、一目で価値の高いものだとわかる。


 燭台を手に持ってみると、ずしりと金属の重みが手にかかる。仮面を被った俺の顔が表面に映る。よほど丁寧に磨かれた品なのだろう。


「すごいな……。これ、いったいどうしたんだ?」


 尋ねると、コブがよくぞ聞いてくれたとばかりに胸を張った。


「ふっふっふ。近くのちっぽけな教会があんまりにも無警戒だったからさ。これは狙ってくれってことだと思って行ってき「バカたれ!」うぼあ!」


 気づけば脳天にチョップを放っていた。ついカッとなってやった。今も後悔はしていない。


 コブは頭を抑えて戸惑っている。


 チャーはそっとお宝を置いて目を逸らした。


 ソージはあわあわしている。


 ビコーは無反応――じゃないな。固まってる。


 子分たちの反応も頷けるというものである。



 よりによって、よりによってあそこに盗みに入ったのか!



 俺の脳裏に魔王のごとき形相の神父が浮かび上がった。


 いかん。鳥肌が。


「おま、今からあそこに頼みごとしにいくとこだったのに。なにしてくれてんだよ」


「ええ? そうなの? でも知らなかっ「バカたれ!」ったーい!」


「どのみちギルドの方針には逆らっとるだろーが。そもそもこういう盗みはウチではやらないってこの前決めたばっかりだろ」


 盗賊ギルドに入れられて呪いがかかった俺は、前親分から許可をもらってせめてやりやすい形で仕事をさせてもらう約束をした。



 ――心根の腐ったやつからしか奪わない。



 それで俺が決めたルールがこれだ。一方的に決めたのではなく、子分に一人一人説得して納得してもらって――というかみんな快諾だったが――みんなで決めたルールだったはずなのだが。


「すっかり忘れてた」


 これである。


 さて、この盗品をどうするか。


 正々堂々正面から教会に行って、盗人から盗品を取り返した善人のフリをするか?


『そこで盗人と揉みあいになりまして。捕まえ損ねましたが盗品らしきものを落としていきましたよ。もしかして、ここの物ではありませんか?』


 怪しまれないよう素顔で行く必要があるだろうし、ばれたら死である。


 しかし、この作戦で一番大変なのは成功してしまったときだ。メンタルの強靭さを試される。


『ありがとうございます。どうかお礼をさせてください!』


 そんなこと言われたとしたらいたたまれない。


 お礼を断って遠慮深い人と勘違いされたらと思うとたまらない。


 盗品返しに行って熱烈に感謝されたら、俺、たぶん消えてしまいたい気持ちを抑えられないと思うんだ。

 きっと、謝りたくて謝りたくて震える。


 この作戦はなしだな。


 裏口からこっそり返しに行って、お願いは明日の朝にしようか。うん、そうしよう。


 あ、被り物つけたまま行ったら不審者扱いになるかな……。


 ちなみに、正々堂々謝って返しに行くという選択肢はない。


 さっきも言ったがあそこの神父は怖いのだ。普段は慈愛に満ちた敬虔な信徒なのだが、教会に悪事はたらくと「異教徒め!」とかいって土魔法ぶっぱなしてくる。


 他所の賊に神父が攻撃しているのを見たときは恐ろしかった。


 でっかい岩を顔面めがけて飛ばしていた。


 衝撃の瞬間である。



 そして今回、そんな神父が大事にしていた銀の食器や燭台などの高価な品々を盗んでしまったのだ。


 殺されるんじゃなかろうか。


 神父以外はいつも穏やかな人たちらしいんだけどなあ。


 怒られるだけで済むんなら謝りに行くんだけど、死にたくないし子分を死なせるわけにもいかんから隠密作戦で行くっきゃない。



 あれこれと思索に耽っていたところをコブの声に呼び戻された。


「ねえ。親分、それ返しに行くの?」


 先ほどとは違った気弱な八の字眉毛が、罪悪感を覚えているのを伝えてくる。


「うん? ああ、そうだよ。明日の仕事は先延ばしにしたくないし、すぐにも行こうと思う」


 もう怒ってはいなかったので、叩いた頭をグリグリと撫で回してやった。ジャガイモの被り物の中身は綿ではないらしく、プニプニとした弾力が押し返してくる。


 コブは俺の手を黙って受け止めていた。まんまるの目をうつむけてしょぼくれている。


「ごめんなさい……」


「おう。そうだぞ反省しろ。そしたらもうルール忘れないだろ」


「うん。あの、俺もついてっていい? 俺が盗んだせいだから……」


「おう。俺はアイテムボックス使えないから、いてくれると助かるよ」


「……うん!」


 さっきまでしょぼくれていたそばかす顔のやんちゃボウズが、光を取り戻したみたいににっこり笑った。


「じゃあ、荷物運びは任せるよ。盗んだものをもう一度しまっといてくれ」


「わかった!」


 すっかり元気になったコブがアイテムボックスにポイポイと盗品をぽいぽいと放り込む。やっぱりあの魔法は便利だなーと感心していたら、腕がぐんと重くなった。


「お?」


「ボクも。ボクも行く」


 ビコーが服の裾をぐいぐい引いていた。年少組のビコーとコブは仲がいいし、フォローにつきあいたいのだろう。


 なんせフォローしないと神父にコロコロされるかもしれないのだ。


 こいつが自己主張するのは珍しいから、尊重してやるか。


 ビコーのことも撫でてやると、嬉しさをこらえるように口をヒクヒクさせた。


「わかった。じゃあ三人で行くか?」


 年少組が頷いたところで、ソージがぴょこんと手を挙げた。


「はい! 俺も一緒に逝くっす!」


 口頭なのではっきりしないが多分字がおかしい。


「待てい、ソージ。お前は掃除の途中だろーが。俺と一緒にお留守番な!」


「うう~」


 チャーがソージの手を下ろさせた。

 みんなで行くと見つかりやすくなる。気配を消すのが得意なビコーと一度潜入に成功しているコブ以外は、連れていかないほうがいいだろう。


「チャーも行かないんすか」


「まーね」


 目が合うと、チャーが小さく頷いてみせる。どうやら俺の意図を理解してくれているらしい。


「聞き込みとかで、も~すっごく疲れたんだ。仕事の時間まで寝たいからここ泊まってくわ~」


 そう言うと、チャーは奥の仮眠室へと引っ込んでいった。

 本当にどうでもいいと思っているわけではなく、信頼から出る態度……のはずだ。


「それじゃ、ソージ。チャーと留守番を頼むよ」


「はい……」


 覇気のない返事だな。

 とはいえ、連れて行くわけにもいかない。


 神父が荒ぶったときは両手に一人づつ抱えて逃げるつもりだから、三人連れると定員オーバーなのだ。


「なんかあったらチビたちをここに逃がすから頼む。掃除が終わったら仮眠室で寝て待機な」


「はい、親分! 任せてください。ちゃんと待機してるっすから!」


 おお、うちの子分たちは復活が早いな。もう笑顔になってら。


「おやぶーん。準備できた!」


 戻ってきたコブがよそ見しているビコーの手を引いている。テーブルからはきらめく銀の品々はすっかりなくなっていた。


 ちなみに年少組は仕事の時とそうでない時にその関係がまったく逆になる。


 ビコーの能力は優秀だ。気配を消せるし、身軽だし、器用だし、あまり話さないけど判断力も優秀で、仕事ではチャーかビコーに相談すれば行き詰ることはない。


 対してコブはアイテムボックスが使える以外はすべての能力において他のメンバーに劣っている。

 だから仕事中はビコーが活躍し、そのあとをコブがついていく。


 けれど、ビコーは仕事以外では常に省エネモード。とってもぼんやりさんである。

 それに、俺に控えめに甘えることはあるけどめったにわがままを言わない。さっきの「一緒に行く」発言は貴重な瞬間だったのだ。

 判断力の優秀さが災いしているのだろう。ビコーは人に手間をかけさせることを避ける傾向があるのだ。



 まだ幼いのだからもっとわがままに振舞ってもいいのだが。


 まだ幼いからこそ匙加減が下手なのかもしれない。



 そんなビコーを普段連れまわしているのがコブである。たまに鬱陶しがられてもいるが、一緒にいる限り、ビコーが一人なら食べなかったであろうもの、見なかったであろう景色を共有してくれているようだ。


 空気を読めないんだか読んでいるんだか、コブのおかげでビコーも楽しそうにしていることが多いので好ましい関係といえるだろう。


 一緒に暮らしているようだし、本当の兄弟のようである。


 失敗してもへこたれない明るさがとりえの兄と、有能だけど生きるのが不器用な弟の関係を見ているようで微笑ましい。


「うっし、じゃあ行くぞー」


 神父に見つかっても二人を守ってやらないとな。


 仲の良い年少組と共に、ソージに見送られながらアジトを後にする。


「生きて……生きて帰ってきてくださいね!」


 不吉なことを言わないでいただきたい。



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