3-34 咆哮 後編 (new) 7/7
視界の端で、セリオスがゆらりと起き上がるのが見えた。
ヤツは、自分のわき腹に刺さったナイフをちらりと見やると、まるで糸くずでも払うかのように引き抜いた。腹の内側に溜まった血液が、穴の空いた水風船のようにビューッと吹き出る。しかしセリオスは痛がる素振りなど微塵も見せず、それどころか笑顔を浮かべた。まるでトランプのジョーカーのような笑み。
セリオスはおもむろに足もとの泥――己の血が染み込んだ土だ――をひと握りすくうと、ぱっくりと開いた傷口へ押し込んで、強引に出血を止めた。しかしそれでもセリオスは笑みを崩さない。
「…………」
目を背けたくなるような光景を前に、僕は慄然と息を呑んだ。
地面を這いつくばる僕を悠然と見下ろしながら、セリオスが近づいてくる。
ヤバいヤバいヤバい。頭のなかで焦燥が喚きたてる。
「てこずらせやがって。やっと追い詰めたぞ――――弟の仇め」
「……弟? 弟ってなんの」
言いかけた直後、セリオスに側頭部を蹴り飛ばされた。眼球が飛び出るかと思うような衝撃。上げかけた頭が再び地面にぶつかって脳がシェイクされる。衝撃で鉄仮面の金具が破損し、顔から外れてフリスビーのように飛んでいった。
「どんな野郎かと思ったら、ずいぶん若いじゃないか」
すぐ近くで発せられた声が、まるで洞窟の奥から響いてくるかのように聞こえる。いまのはマズいくらいに効いてしまった。視界が遠く、白濁していく。いま気を失うのは絶対にダメだ。僕は頬の内側を強く噛んで、遠のきかけた意識を必死に繋ぎとめた。
重い瞼を無理やりひらく。
するとそこには反吐が出るような笑顔があった。
ああそうか、と合点がいった。こいつがさっき言った弟とは、昨日ダイナマイトの矢を撃とうとしたあの少年のことだ。虫唾が走るほどそっくりだった。兄弟揃ってマフィアで賊。おまけにこの顔。きっとろくな家庭環境じゃないのだろう。
にしても、ダメージがなかなか抜けてくれない。耳鳴りは止まず、世界の輪郭はところどころが狂っている。バランス感覚も微妙におかしい。くそ、脳震盪を起こしている。回復にはもうすこし時間が必要だ。
「覚悟しろよ」
笑顔のままセリオスは言った。
「いまからお前には、戦場でもお目にかかれないようなえげつない拷問をしてやる。全身の部品を切り落として、生きたまま皮をはいでやる。どうだ、すこしは怖くなってきたか?」
「……べつに」僕はうずくまりながら犬歯を剥き、セリオスを鋭く睨みつけた。「くたばれクソ変態野郎」
へたに相手を刺激するべきではない。
それは分かっている。分かってはいるが、それでも腹の底からこみ上げてくるこの怒りを押しとどめることができなかった。
「そっちこそ覚悟しろよ。お前はぜったいに僕が殺してやるからな」
「ハハハ、威勢が良いな。見た目よりも肝が据わっているじゃないか」
「それはどうも。――――ところで」
「ん、なんだ?」
「弟さんの姿が見えませんが、今日はお留守番ですか?」
「――っ!」
刹那、セリオスの頬が震えた。
傷口に土を捻じ込んでも小揺るぎしなかった表情に変化が出た。
僕は胸のうちで笑った。弱点みーつけた。
「ああ、すみません、そういえば昨日ダイナマイトで粉々になっちゃったんでしたっけ。ご愁傷様です、あはははは」
熱を持ちはじめた脇腹の痛みを堪えながら、僕は大げさに笑い返してやった。
やりすぎたかもしれない。
でもそのおかげでセリオスにへばりついていた笑顔を消すことができた。額にミミズ大の血管が浮き、色白の顔が、アルコール依存症患者のように赤黒く濁っていく。その様を見て少しだけスカッとした。
「――笑ったな、いま、ペドロの死を笑いやがったなあああ」
ポーカーフェイスを続ける余裕がなくなったのだろう。
目じりが横に裂けるほど眼を剥き、セリオスは僕の脇腹を蹴った。体が浮くようなキツイ一発をまともに食らってしまう。体内からメチメチと音が鳴り「ぐあぁっ」僕は堪らずうめきを上げた。もう2,3言ってやりたかったがちょっと無理っぽい。
この蹴りは計算外だったが、貴重な時間が稼げた。
耳鳴りはやみ、色彩が鮮明になっている。
そろそろだ。
「いますぐその面を切り刻んで、二度と減らず口を叩けなくしてやる!」
激昂したセリオスが、革ジャケットの内ポケットから小型のナイフを取り出した。それは医療用のメスに似た形状だった。ほかにも釣り針やハサミなどもチラリと見えた。どういった用途で使われるか理解し、胃が嫌な感じに重くなった。
この野郎、本気で僕に形成外科手術をするつもりらしい。
でもあいにく、変態野郎のお医者さんごっこに付き合ってやるつもりはなかった。
いまや意識は完全なレベルにまで回復していた。
僕は、僕を取り戻した。
――――さあ反撃の時だ。
いまだなにやら喚いているセリオスを無視し、僕は冷静に状況を確認した。
意識はハッキリしているが、すばやくは動けそうもない。アバラはやっぱり折れてる。だが反撃はできる。右手に意識を向ける。ベレッタを召喚してから撃つまで最短で2秒。しかしヤツにはまだ擬似障壁があるため、迂闊には攻撃できない。
僕は腹を庇うようにして右手を隠し。
全身の細胞を滾らせて、チャンスを見計らっていた。
その時だった。
木々の向こうから、馬の足音が近づいてくるのに気がついた。小さかった音が、だんだんと大きくなってくる。音のほうへと顔を巡らせると、そこには馬に乗った一人の男が立っていた。
一瞬、脳が理解できず、それが誰であるかがわからなかった。
なんでアイツがここに!?
そこにいたのは、なんとドミニクだった。
「……ハハ」
脂汗まみれの顔で、僕は薄く笑った。
ドミニクのヤツ、特撮ヒーローみたいなタイミングで登場しやがった。
ほとんど落馬するような勢いで馬から降りたドミニクは、
「オガミー! 助けに来たぞーーー!!」
木にしがみつくようにしてヨロヨロと起き上がると、杖を振り、ひとつの火球を生み出した。バスケットボールほどの火炎の塊。さらにドミニクは魔法薬をふりかけ、火球を肥大化させた。轟々と燃えさかる炎が気流をうみ、ドミニクの前髪を浮き上がらせ、まわりにある景色を歪ませる。
まさかあいつ、あの体で魔法を撃つ気か?
その決然とした表情を見る限り、どうやら本気でやるらしい。
セリオスまで20m。十分射程距離内だ。
「チッ、あと少しというところで」
瞬時に危険を察知したセリオスが、その場から駆け出す。しかしドミニクは魔法を撃つのを躊躇っていた。僕を巻き込む危険性があったからだ。「……っ!」歯軋りしたその時、放置したままだったシールドが目にとまった。穴さえ塞げばまだ使える。
僕は腹を括った。
「ドミニク! いますぐそれを撃てっ!」
「だが――」
「いいから早くしろ! 僕にかまうな!」
反論を遮るように叫ぶ。
数瞬、逡巡していたドミニクは、
「……くそ、くそぉお、どうなっても知らねえからなあ!!」
ヤケ気味に叫ぶと、十字を切るように杖を動かした。
すると火球に変化が起こった。
火球の表面に碁盤の目のような亀裂が走り、何百という火の礫(つぶて)へと分裂したのだ。ひとつがサイコロほどの火球が、蛍の群生のように寄り集まって浮遊している。
(……なんだよあれ)一瞬目を奪われてしまった。今までの単調な魔法とは、明らかに”何か”が違う。あの魔法からは、背筋が寒くなるような脅威を感じた。
僕は体を引きずるようにしてシールドまで駆け寄ると、穴を修復し、地面への固定を急いだ。
ドミニクが三度杖を振る。
それを合図に、火球が一斉に飛び出した。
火球の群れがすさまじい速度で扇状に広がる。横殴りの雨のように押し寄せてきた火球の群れに、僕とセリオスはたちまち飲み込まれた。
一瞬で視界がオレンジ一色に染まる。
肌を震わせるほどの轟音。次々に火球が地面に着弾し、枯葉と腐葉土を巻き上げ、羽虫のように跳ね散らかせる。視界が一気に狭まる。僕に襲い掛かってきた火球は、すべて半透明のシールドによって遮られた。なんとか間に合った。
シールドを地面に固定して正解だった。
もし手に持っていたら、今頃引っくり返されて死んでいただろう。
シールドのあちらこちらから「ゴゴンガゴン」と鈍い音が響き、その度に肝が冷える思いをした。まるで死神のノックだ。ドアを開けたら死が待っている。
シールドの表面が削れ、細かなひびが入りはじめる。僕は必死にシールドを修復しながら、嵐が過ぎ去るのを必死に耐えた。
やがて。
静けさが戻り、徐々に視界が晴れていく。
土煙が消えると、そこには火球による生々しい爪痕が一面に広がっていた。いま生きているのが不思議に思えるような景色だった。
限界を迎えたシールドがボロボロと崩れ落ち、足元に半透明の小山ができた。
セリオスはどうなったかというと――――重症を負っているとは思えない俊敏さで、新たな木へと転がり込み、難を逃れていた。しかし無傷とはいかなかったようだ。逃げる間際、腹に2発の火球が食い込んだのをしっかりと見た。セリオスが隠れている木の根元には、おびただしい血痕が残っている。逃げ延びたというよりは追い詰められたというほうが正しい。
「ゴフッ、ガハッ」
魔法を撃ち終えたドミニクは2度3度胃液を吐いて、がくりと地面に倒れた。
その顔は蝋燭のように青白く、精も根も尽き果てたといった様子だった。もう自力で起き上がることさえ無理そうだ。そうなるのも当然だ。魔力欠乏症は一晩で回復するような生易しいものじゃない。無理に魔法を使えば命を落とす危険だってあった。それを承知でドミニクは魔法を繰り出したのだ。
倒れて動かなくなったドミニクを見ているうち、僕の胸に熱いモノが込み上げてきた。
まるでバトンを渡されたような気分だ。
ドクンドクンと脈が駆け足をはじめる。
よくやったドミニク。
すこしそこで休んでいろ。
ちょうど人一人が隠れられる窪地を見つけたのでそこまで移動し、M4A1の損傷具合をチェックした。幸いにもナイフを受けて壊れたのはストック部分だけだった。これなら交換すればすぐ撃てる。新たにストックを召喚して付け替え、ドライファイア(空撃ち)で動作に問題がないかを確認。ベストから最後のマガジンを取り出して挿しこみ、ボルトリリースレバーを押して薬室に初弾をセット。準備完了。
僕は瞼を閉じ、一度深く呼吸した。
ドミニク、お前の覚悟は確かに見たぞ。
あとは僕にまかせろ。
お前に代わって僕が引導を渡してやる。
「!」
その時、前方で人の動く気配がした。
盛り上がった土の隙間から覗くと、セリオスが弓をつがえているのが見えた。クソッ、先にドミニクを片付けようとしているのだ。
(――やらせるかよ!!)
僕は片膝をついて銃を構え、上半身だけを窪地から出すと――――すこしだけ見えているセリオスの頭部にACOGの照準線を合わせた。セリオスはまだこっちには気付いていない。好機だ。しかし引き金をしぼる瞬間、「っ!!」セリオスは第三の眼で僕を見ていたかのように反応し、頭を瞬時にして引っ込めた。
瞬きひとつの差でライフル弾が目標を見失い、まったく関係のない木に穴を穿った。
またしても弾を躱された。
だが、ようやくわかった。
音だ。
エルフ(長耳族)は特に聴覚が優れていると聞く。
おそらくセリオスは雑音の中から『引き金をひく時の音』だけを正確に聞き分け、こっちのタイミングを予想して回避行動をとっていたのだ。リロードの瞬間を見抜いたのもそれで説明がつく。思い返せばアイツが飛び出してきたのは、マガジンリリースレバーを押した直後だった。
さすがファンタジー。こっちの予想の斜めを行くようなことを平然としてくる。
だがカラクリがわかればどうってことない。
その利点が命取りになるって事をいまから教えてやる。
僕は窪地から立ち上がると、セリオスの隠れている木に向かって発砲した。マズルフラッシュ。銃口から火花が吹き、硝煙へと変わる。銃撃の反動が波となって体の上を走り、脇腹から痛みが発せられる。それを根性で堪えて、さらに引き金をしぼる。
立て続けに三発撃ったが、しかしどれも遮蔽物を貫通するには至らなかった。
鉄の胴甲冑をやすやすと貫くライフル弾でも、幅2m以上の大木の前には歯が立たない。乱暴なノックをしているにすぎなかった。
「どうしたセリオス、弟の仇を討つんじゃないのか! 最後ぐらい男らしく勝負したらどうだ! 出てこい、相手になってやる!」
「……」
さらに二発撃って挑発するが、セリオスは殻に閉じこもった貝のように乗ってこない。
大丈夫。
その殻を開ける合言葉を、僕は知っている。
僕は、まだ弾の残っている状態でマガジンリリースレバーを押し、銃本体からマガジンを排出させた。ボトッと足元で音を立てる。
これにセリオスが反応した。
正面にした木の陰から、弓を構えたセリオスが勢いよく飛び出してきた。
この瞬間。
僕は極限の集中を手にしていた。
鋭利な刃物と化した神経上に、稲妻のような電気信号が走る。感覚神経から脳を介して運動神経へと火花を散らせながら情報が行き届く。称号「一匹狼」によって強化された感覚器官が咆哮をあげた。
時間を遅く感じる。
いまの僕なら、飛んできた矢を目で確認してから避けることができるかもしれない。
銃を構えたままの僕を見て、セリオスの眼が動揺にゆれていた。「なぜだ」とその顔が言っていた。こっちの弾切れを確信しての奇襲だったのだろう。
でも残念。
お前は知らないだろうけど、銃は『薬室に弾がセットされている状態なら、たとえマガジンを外しても、薬室の一発だけなら撃つことができる』んだよ。
虚をつかれセリオスは混乱している。
その動揺が、回避という選択肢を遅らせることとなった。
ヤツはもうどうあっても弾を食らう運命だ。
僕は引き金をひいた。
連動したハンマーがファイアリングピンを介し、薬室に待機していた弾薬のプライマー(雷管)を叩く。発火。ガンパウダーに引火。銃の機関部で魔力の激発が起こり、弾頭が撃ち出された。弾頭はガス圧に押し出され、螺旋の溝がついた銃身を通ることで加速していき、毎秒900mという超音速で銃口から飛び出した。
弾頭はきりもみ状に回転しながら吼え。
一条の光となって宙を疾駆する。
狙いはセリオスの左胸。
心臓だ。
遅れて、セリオスが矢を放つ。それは相打ちをねらった一矢だった。
この瞬間。
神のイタズラとしか思えないような偶然が起こった。
ライフル弾の進路と、矢の進路が重なったのだ。
まるで両者の命がせめぎ合うかのように、ライフル弾と矢じりが交差。細かな火花が散り、互いの進路が反れる。
――ライフル弾は上に。
――矢は下に。
これが明暗を分けることとなった。
僕の首を狙った矢は、僕の手前で地面に突き立った。
ライフル弾は――――心臓から頭部へとコースを変更。下から掬いあげるような弾道を描きながら、セリオスの左目の上あたりに着弾した。
弾が、うすく張られた皮膚を切り裂き、前頭骨に穴をあけて内部へと進入した。硬膜を引き剥がし、大脳の前頭葉、頭頂葉を派手に破壊する。さらに空洞現象で追い討ちをかける。頭頂部からライフル弾が抜け、セリオスの髪が一瞬ふわっと舞い上がった。同時に白い骨の欠片と肉片がクラッカーのように飛び散った。
頭蓋骨の内圧によって押さえられていた脳が解放され、傷口から自然に露出する。枯葉の絨毯に、ビチャッとジェル状の血飛沫が付着した。
いまの一撃が、左脳に壊滅的なダメージを負わせたのは明白だった。
セリオスは大きく目を見開き、悲鳴も怒号もあげず、顔を凍りつかせていた。
世界が停止したかのような沈黙。
一発の銃声が、遠吠えのように森に染み渡っていく。
やがてセリオスは正座でもするかのようにストンと腰を落とすと、左目だけがグルンと上を向き、そのまま後ろへと倒れた。どさっという音とともに枯葉が舞う。
やっと仕留めた。
安堵の溜め息をつこうとした――その刹那。
「なっ!?」
信じられないことに、セリオスはバネ仕掛けのような勢いで半身を起こした。
割れた頭蓋骨の一部が、頭皮によってかろうじて引っ付いているという状態で外側にめくれ、崩れかけた中身がまろび出ている。その幼虫のようなピンク色の脳みそが、脈動とともにピクピクと蠢いているのが分かる。
足元には血の池。
着ている服は出血で、もとの色が何だったか思い出せないほどに赤黒く染まっている。もはや生きているのがおかしい状態。なのにヤツはまだ生きている。生きて、僕に敵意を向けている。
「……なんて……なんてやつだ」
己の死すら引き伸ばすその執念に、僕は恐怖と共に一抹の畏敬をおぼえた。
セリオスは僕を睨めつけながら、一本のナイフを取り出した。過剰なぐらい装飾が施された悪趣味なナイフ。グリップにつけられた紅いルビーがとくに目を引く。その宝玉に、僕は何か危険なニオイを感じた。
「お、オおMAぇー絵もぉお」
まるで一語ずつ別の人間が発声したかのような声。
「ミィちZUるぇにシぃ手えやルゥああ!」
地獄から響くような物凄まじい叫びをあげ、セリオスはナイフを頭上に掲げた。
(あれは危険だ!!)
僕の第六感が悲鳴をあげる。
直感で理解する。あれを止めないとヤバい!
僕は急いで先ほど落としたマガジンを拾うと、M4A1に挿し込んだ。しかしこのままでは撃てない。薬室に初弾をセットしないと。前方で、セリオスがナイフの宝玉を地面に打ちつけようとしている。間に合えっ。ボルトリリースレバーを叩いて初弾を薬室へ。狙う暇などない。セレクターをセミからオートへ。そして僕は、なぎ払うようにM4A1のフルオート射撃を繰り出した。鼓膜を傷つけるようなM4A1の咆哮。逆袈裟に走った弾丸のうち3発がセリオスに炸裂した。1発がセリオスの指を3本吹き飛ばし、1発が肘を付け根から噛み千切り――――ラスト1発がセリオスの左胸、心臓のど真ん中を捉えた。超音速のライフル弾が心臓をずたずたにし、背中側で肉の花が開き、そこから爆発したかのように血が飛び散った。
銃声が反響する。
銃口から細かな硝煙が立ち上る。
回転したセリオスの前腕が、まるで絵筆のように赤い線を描き、どさりと地面に落ちた。
セリオスは切腹しているような姿勢のまま停止し、やがて崩れるように横へと倒れた。カッと見開かれた右眼から、ブレーカーを切ったかのように色が失われていく。
数度、体を痙攣させ、やがてセリオスは完全に沈黙した。
終わった。
今度こそ本当に終わった。




